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(写真:「(8度目で)一番うれしい優勝かもしれない」と喜んだ水谷)

 全日本卓球選手権最終日は17日、東京体育館で行われた。男子シングルス決勝は水谷隼(beacon.LAB)が張一博(東京アート)に4-1(9-11、11-4、11-4、11-7、11-6)で勝利した。水谷は同種目8度目の制覇。斎藤清に並ぶ歴代最多タイ記録となった。女子シングルスは石川佳純(全農)が平野美宇(JOCエリートアカデミー)を4-1(11-7、11-4、11-8、9-11、11-9)で下し、3年連続4度目の優勝を果たした。

 

 同日、日本卓球協会は理事会を開き、2月開幕の世界選手権団体戦(マレーシア・クアラルンプール)の日本代表選考を行った。男子は既に内定していた水谷、丹羽孝希(明治大)、吉村真晴(愛知工業大)、松平健太(JTB)に加え、大島祐哉(早稲田大)が代表入り。女子は石川、福原愛(ANA)、伊藤美誠(スターツSC)、浜本由惟(JOCエリートアカデミー)内定組に若宮三紗子(日本生命)を追加した。

 

“水谷劇場”再び ~男子シングルス~

 

 今年も主役は水谷だった。打ってよし、守ってよし――。全日本男子の倉嶋洋介監督は「ダブルスと合わせての2冠。水谷1人の大会に思えてしまった」と総括するほど、その実力は圧倒的だった。

 

 準決勝は笠原弘光(協和発酵キリン)をストレートで破った。「世界6位のプレーを見せたい」と語っていた通り、昨年はファイナルゲームまでもつれた相手を寄せ付けなかった。相手のサービスに対してはチキータ(バックハンドで回転をかけるレシーブ)を多用。逆に笠原にはチキータをさせないサーブを繰り出した。笠原は「最後まで対応できなかった」とリズムに乗れぬまま試合を終えた。水谷は10年連続で全日本選手権のファイナルに立った。

 

 迎えた決勝は5年ぶりに張と対戦。当時は水谷がストレートで下している。対戦成績も本人の印象によれば「国際大会で1回だけ負けたくらい」と好相性だ。とはいえ張は準々決勝で丹羽、準決勝で吉村とリオデジャネイロ五輪代表候補を立て続けに撃破していた。勢いに乗る30歳のレフティーを相手にしても動じない。水谷は「丹羽と吉村と一緒にされては困る」と第一人者のプライドを覗かせる。

 

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(写真:水谷は台の周りを縦横無尽に動き回った)

 第1ゲームは5-1と序盤リードしながら逆転を許し、9-11で落とした。「本来なら最悪の流れ」。だが水谷はこの窮地にも「今日はなんとかなる」と2ゲーム目から盛り返す。レシーブが得意ではない張にサービスで崩し、リズムを取らせない。張も「2ゲーム目からタイミングが合わなくなってきて、自信もなくなってきた。やられる一方だった」と語った。準々決勝で敗れた丹羽が「ほとんどブロックされて、攻めても打ち抜けなかった」という張のブロック技術も連打や速攻で、打ち抜いて見せた。

 

 第2、3ゲームをいずれも11-4で連取。水谷劇場はその後も続き、第4ゲームは打ち合いになっても台をオーバーするのは張の方だった。「ラリーの強さは僕の特長。どの選手とやろうとも絶対に制したい」と水谷。11-7で、このゲームを取る。第5ゲームは張のラケットを2度も空を斬らせた。10-6でチャンピオンシップポイントを掴む。最後は張の返球がネットに跳ね返される。ゲームカウント4-1で水谷が3連覇を達成した。

 

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(写真:3連覇が確定し、ひざまずいてガッツポーズ)

 これで水谷は歴代最多タイとなる8度目の天皇杯を手にした。全日本選手権通算101勝の斎藤と並ぶ記録。水谷は「10年前の初Vからずっと狙っていた。まだ並んだだけ。偉大な先輩の記録を超えて、できれば2ケタ目指したい」と話した。実は今回の決勝が10年間で一番自信がなかったという。大会前から腰痛に悩まされ、調子も良くなかった。

 

 それでも栄冠は水谷が手中に収めた。エースの底力を示した。倉嶋監督はリオ五輪代表候補の3人を比較し、水谷の勝因をこう説明する。

「吉村と丹羽が国内で負けるのは想定内な部分もある。彼らは技術が高い選手で、国内の選手には慣れられてしまっている。ただ水谷はそれでも総合力で勝てる」

 

 26歳のオールラウンダーは、日本では敵なしの存在と言っていい。見据えるのは世界――。水谷はレシーブ力には定評があったが、今大会では前陣で勝負するなど、世界の潮流に合わせ攻撃的なスタイルへのモデルチェンジを図った。4年前は叶わなかったオリンピックイヤーでの全日本選手権制覇。7カ月後に控えるリオ五輪にも弾みをつけた。

 

 成長続ける日本のエース ~女子シングルス~

 

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(写真:陳コーチ<右下>ともに歓喜を表した)

 22歳の石川は、史上最年少の15歳で決勝まで上り詰めてきた平野の挑戦を退けた。

 

 第1ゲーム、石川はいきなり4連続ポイントを奪う。挑戦者として向かってくる相手に対しては「出足が肝心」と先行を許さなかった。10-4でゲームポイントを取ると、平野に粘られたものの、11-7で先取した。

 

 続くゲームで石川はさらに平野を圧倒した。フォア、バック両ハンドで相手を押し込む。石川の打球は台上を襲うのに対し、平野のそれは台を越えていく。11-4で第2ゲームを掴むと、第3ゲームはこの試合初めてリードを許すなど、4-7と平野の反撃に遭う。それでも強打で平野のラケットを弾くなど、終盤に盛り返した。結局、このゲームも11-8で取った。

 

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(写真:「ラリーでは負けない」と勝気な部分も覗かせた石川)

「競り合いから取れて気持ち的に余裕ができた」と石川。第4ゲームは9-11で失い、第5ゲームは1-1から5連続ポイント奪われた。4-9と追い込まれても「エンジンをかけられ、強気でいけた」と一気に捲る。6連続得点で10-9とチャンピオンシップポイントを手にした。そのままデュースに持ち込ませることなく押し切った。ゲームカウント4-1で石川が4度目の全日本女王に輝いた。

 

 準決勝で伊藤との中学生対決を制した平野だったが、「他の人なら抜けるボールも対応される。世界ランク1ケタ(7位)は違う……」と肩を落とした。石川は「前より攻撃的でいいプレーがたくさんあった。質も上がっているし、大人のプレーになってきた」と評価しながらも、力の差を見せつけた。

 

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(写真:試合直前の表情からも石川の落ち着きが見て取れた)

 得意のフォアハンドの威力はもちろんのこと、台上でのレシーブには安定感があった。石川自身も「全体的にいいプレーができ、去年よりレベルアップした」と手応え十分だ。「ラリーのコース取りを早く動けている」とフィジカル面での成長が見えたという。

 

 年初めの大きな大会を制し、石川は「いいスタートを切りたかった。内容も良く、楽しくできた」と皇后杯獲得を喜んだ。ロンドン五輪ではシングルスで4位、団体では銀メダルを獲得した。今年の夏は更に上を目指す。「リオ五輪は覚悟を持って臨みたい」。日本女子のエースは意気込んだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)