プロ野球の今季開幕は3月25日である。昨年の日本一・福岡ソフトバンクを天然芝にリニューアルした本拠地に迎える東北楽天の開幕戦の試合時間は薄暮の時間帯にあたる午後4時――。25日付の本誌記事で知った。

 

<気温が高いデーゲームだと客足が鈍り、ナイターでは動員が見込める一方で真冬の寒さまで気温が低下する>(本紙)。薄暮試合は苦肉の策のようだ。

 

 楽天の開幕直後の試合を、何度か取材したことがある。東北の春をナメてはいけない。温度計が氷点下を指すのにはびっくりした。東京なら真冬である。

 

 仙台も寒いがシカゴも寒い。今から20年前のことだ。1996年4月の第一週、私はドジャースの野茂英雄をインタビューするため、カブスの本拠地リグレー・フィールドにいた。

 

 シカゴに乗り込む前、ドジャースはアストロズの本拠地ヒューストンで開幕カードを戦った。まだ4月だというのに、スタジアムには半袖シャツ姿のファンがたくさんいた。

 

 北緯29度のヒューストンから同41度のシカゴまで飛行機で約3時間。リグレーに着くと、みぞれが降り始めた。みぞれはやがて雪に変わり、氷点下でのデーゲームとなった。選手たちはフードをすっぽりと頭からかぶるスパイダーマンのような出でたちでグラウンドに姿を現した。

 

 当時のカブスにはマーク・グレース、サミー・ソーサ、ルイス・ゴンザレスら強打者が揃っていた。ミシガン湖から吹きつける寒風もものかは、彼らのバットは快音を発し続けた。「ヤツらは暑いとか寒いとか関係ありませんよ」。ボソッとつぶやいたヒデオ・ノモの一言が忘れられない。

 

 この4連戦はカブスが3勝1敗で勝ち越した。寒さというホーム・アドバンテージをいかした格好だった。

 

 ある意味、試合の中身以上に感心したのが、球団の“商魂”である。みぞれが雪に変わると同時に、防寒用のジャンパーを販売し始めたのだ。プレミアム商品との話も聞いた。これが飛ぶように売れた。この日のために用意していたものか在庫品だったのかは、よくわからない。どちらにしても絶妙のタイミングだった。

 

 ゲーム同様、マーケティングにおいてもハンディキャップは時としてアドバンテージに転じる。気温はマイナス、だが商売にはプラス――。寒冷地球団ならではの楽天のビジネスセンスに期待したい。

 

<この原稿は16年1月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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