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(写真:1993年秋にスタートしたUFCの試合場は八角形のケージ「オクタゴン」。多くの団体がこれを真似てケージを採用した Photo by真崎貴夫)

 総合格闘技における最良の試合場は、ケージか、それともリングか?

 

「その答えは、すでに導き出されている」

 米国の総合格闘技関係者の多くは、そう口にする。なぜならば世界の総合格闘技界をリードする『UFC』をはじめ、多くの団体がケージを採用しており、現在では、これがスタンダードと化しているからだ。

 

 加えて、理由が、もう一つある。

 

 リングでの闘いにおいては必ず見るものが釈然としないシーンにぶつかるからだ。それは両者がコーナー際にもつれ合った際に、倒されまいとする側がロープを掴んで、それを拒もうとする光景である。ルールでは、ロープを掴むという行為は反則。しかし、倒されたくない選手が目の前にあるロープを掴むのは本能的な動きであろう。ならば本来、ロープを掴む行為ができない試合場を設定する必要があると思う。その要件を満たしているのがケージ、というわけだ。

 

 さまざまな意味において競技性を重視するのであれば、総合格闘技の試合場としてリングよりもケージの方が適しているのかもしれない。それでも日本では、いまだ試合場の主流はリングであり続ける。

 

 もちろん、ケージを採用している団体もいくつもあるのだが、一時代を築いた『PRIDE』、そして、この流れを引き継ぎ昨年末に旗揚げした『RIZIN』もリングを採用している。

 

 KO劇を“演出”する舞台

 

 90年代後半に、プロレスファンを引きこむ目算もあった『PRIDE』が試合場にリングを選んだことは、それほど不思議なことではない。だが、ケージが主流となっている現在、『RIZIN』が、なぜ敢えて闘いの舞台をリングにしたのか?

 

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(写真:昨年末に旗揚げした「RIZIN」は5本ロープのリングを用いている Photo by真崎貴夫)

 考えられる理由は、いくつもある。

・大人気を誇った『PRIDE』のイメージを継承したい。

・会場に集まったファンの立場から考えれば、ケージよりもリングの方が試合を観やすい。

・テレビ中継においても、リングの方が闘いを映し出しやすい……etc

 

 だが今日、『RIZIN』がリングを用いた最大の理由は、それらではなかったであろう。そのことにキング・モーが優勝したヘビー級トーナメントを観ながら気づいた。この大会、1回戦から決勝までの7試合中、実に6試合までが1ラウンド決着だった。場内を大いに沸かせる激しい闘いが続いたわけだ。

 

 果たして、このトーナメントがケージで行われていたら同じような内容の闘いになったであろうか。それは否だと思う。

 

 ケージに比べてリングは面積が狭いと同時に、角ばった舞台であるために選手にとっては、後方へのステップを踏みづらい。精神的にも圧迫された状態が生じ、「下がったら追い込まれる、前へ出なければ」との感情が沸き立つのだ。そのため、ディフェンスよりもオフェンスを重視にした動きを選手たちは余儀なくされ、結果としてKO決着が多く見られることとなった。

 

 当然のことながら主催団体はファイターに対して観る者を満足させるアグレッシブなファイトを求める。だから、『RIZIN』は、闘いの舞台をリングに設定したのだ。

 

 ケージとリング……最良は、どっちか?

 

 競技優先で考えるならばケージ、プロとして魅せる闘いをしやすいのはリング。それが結論ではないか。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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