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(写真:“史上最高のシューター”と呼ばれるようになったカリーと、その仲間たちはどこまで勝ち続けるのか Photo By Gemini Keez)

 NBAの2015-16シーズンの話題は、昨季王者ゴールデンステイト・ウォリアーズが、ここまでほとんど独占してきたと言ってよい。

 エースのステフィン・カリーを軸に、周囲をクレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンといったスターたちが取り囲むパワーハウス。NBA記録の開幕24連勝というスタートを切り、その後も勢いは衰えていない。2月5日時点で45勝4敗と、このままいけばシーズン75勝前後を挙げるペースである。

 

“現代のグレートチーム”と呼ばれるようになったウォリアーズは、1995-96シーズンにマイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズが達成したシーズン72勝(10敗)というNBA記録を塗り替えるのか。絶対に破られないと呼ばれてきた金字塔は崩れ、リーグの歴史は変わるのか。今回は4人の著名な現地メディアに意見を求め、その可能性を探ってみた。

 

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(写真:ドレイモンド・グリーンはオールスターに初選出を果たした Photo By Gemini Keez)

 ハワード・ベック(ブリーチャー・レポート)

「11、12月に記録更新が話題になったときには私は懐疑的だった。それだけの実力がないからではなく、長いシーズンの中では必ずケガ人も出るだけに、同じレベルを1年保つことは不可能だと考えたからだ。

 しかし、もうシーズン半分が過ぎてもペースは変わらず、クリーブランド・キャバリアーズ(1月18日に132‐98)、サンアントニオ・スパーズ(1月25日に120‐90)といった強豪チームにも大勝してしまった。ここまで来たら、70勝前後はするだろうなと感じ始めている。

 73勝を挙げてブルズの記録を破るか? それはまだ分からない。繰り返すが、能力の問題ではなく、疲労は溜まるし、故障は必ず起こる。スパーズと3戦、オクラホマシティ・サンダーと3戦を残すなど、今後は日程も厳しくなる。歴史上最高級のチームも1年に1度は必ず厳しい時期を経験してきたことが示す通り、82試合に渡って集中力、健康、リズムを保ち続けるのは簡単じゃない。

 ウォリアーズには間違いなく72勝以上するだけのチーム力はあるが、やり遂げると確信はできない。彼らにとっての最大の敵は、スパーズ、キャブズ、サンダーでもなく、82試合の重荷だ」

 

 フレッド・カッツ(FOXスポーツ)

「シーズン72勝以上という記録を達成するには、実力だけでなく運も必要になる。ウォリアーズには間違いなくそれだけの能力はあるが、もしも賭けるなら、そこまでの幸運には恵まれない方に賭けるのが妥当だと思う。大きなケガではなくとも、主力選手の中の誰かに何らかのかたちで休養が必要になるだろう。そのときまでに(トップシード獲得に)十分なリードを奪い、休ませるという流れが濃厚なんじゃないかな。

 去年同様、今季もシーズンを通じて大きなケガが少ないまま、ここまで来ている。体調維持まで含めて彼らの総合力を物語っているのだろうし、誰もケガしないのは運ではないのかもしれない。

 それでもどこかで何かが起こると考えるのが自然だ。最終的には69~72勝くらいと予想する。それでも史上2位のレコードを達成するのだから、本当に凄いチームだよ」

 

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(写真:カリーと“スプラッシュ・ブラザーズ”を形成するトンプソンの貢献も忘れるべきではない Photo By Gemini Keez)

 ローワン・フィリップス(ニューヨーカー誌)

「新記録を樹立したら私は驚くだろう。ウォリアーズにそれだけの能力があることは証明されているし、あれほどハングリー精神に満ちた前年王者を私は思い出せない。怪物的なチームだ。

 ただ、シーズン終盤に、全力で勝ちにいくか、あるいはスター選手を休ませるべきかを考えねばならない時が必ずやってくる。その選択を後半戦では絶えずやっていく中で、今後にあと6敗以上を喫しないと考えるのは難しい。

 1995-96年のブルズも普通にやれば負けないというレベルのチームだったけど、それでも10敗を喫した。同じことはウォリアーズにも起こると思う。シーズン73勝以上できる実力があるかというのは違う質問で、そう訊かれたらイエスと答える。

 ただ、実際に今季にそれを達成するかと聞かれたら、答えは変わってくる。結論としては、新記録達成しても衝撃は受けないけど、ありそうにないと私は考える」

 

 ジム・ステイモス(ESPNスタティティシャン)

「ウォリアーズの選手たちはプレッシャーを感じてはおらず、記録を成し遂げることを恐れても、必要以上に意識しすぎてもいない。素晴らしいレコードだと感じているが、心底からこだわり、そこに完全に照準を合わせてしまっているようにも見えない。

 勝利に拘りつつ、それでいて日々を楽しみながら勝ち続けているんだ。今後に故障者、休養な選手が出てくれば話は変わるけど、やり遂げる可能性は十分あるんじゃないか。少なくとも現時点での彼らは正しいメンタリティでプレーしているように思える」

 

 ステイモス氏以外の3人は、ほぼ同様の理由でどちらかといえば記録達成にやや否定的だった。ベック記者の言葉通り、“最大の敵は82試合の重荷”というのがほぼ共通の認識と言える。

 

 真の勝負は4月ではなく、ファイナルが行われる6月。たとえ最多勝記録を達成しても、その後のプレーオフで敗れてしまえば、シーズンは成功とはみなされない。だとすれば、シーズン中の勝利に比重を置きすぎて、故障、疲労のリスクを増やすより、敗北覚悟で主力を適度に休ませた方が良い。

 

 そんな風に考えるのは近年のNBAでは通例であり、ブルズの理由が不滅と目された要因の1つでもある。当の筆者も、レギュラーシーズンでの連勝、勝利記録は長い目ではマイナスに働きかねないと考えていた。

 

 フィリップス、カッツ両記者の指摘通り、故障、疲労の蓄積は無視できない。残り日程は容易ではなく、スパーズ、サンダー(2月6日の1戦を含む)と3戦、ロサンゼルス・クリッパーズと2戦、キャブズとも敵地で1戦を残している。オールスターを挟んで迎えるロード7連戦も1つの鍵となるだろう。

 

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(写真:“ロックスター”にも例えられるカリーは今やリーグ最高の人気選手になった Photo By Gemini Keez)

 ただ……そんな難しい要素をすべて考慮した上でも、シーズンここまでを見てきて、筆者の考えも少しずつ変わってきたところがある。

 エースのカリーが不調の日でも、他の選手の活躍で強豪相手に圧勝するロースターの深みは驚異。ステイモス氏が言う通り、日々に必要以上のエネルギーを費やしているわけではなく、ハイレベルな総合力で勝ち続けている。そんな姿を目の当たりにして、残りゲームを28勝5敗、それ以上の勝率で乗り切り、シーズン最高勝率を挙げても驚くべきではないと考えるようになった。

 

 いずれにしても、私たちは歴史的なレギュラーシーズン終盤戦を目撃することになりそうである。敗北のペースが多少は上がっても、ウォリアーズが今後に大崩れするとは考え難い。記録達成の可能性を少なからず残したまま、特に4月のゲームには莫大な注目が集まることになるのではないか。

 

 最終的な結果は分からないが、例年、やや退屈になりがちなプレーオフ開始前のゲームがより興味深くなる。そんな事実だけでも、スポーツファンのひとりとして、歴史との戦いを続けるウォリアーズに感謝したいくらいである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

 

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
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