いわゆる“スリーストライク・アウト・ルール”の初めての適用である。去る12日、MLB機構は、メッツのドミニカ人リリーバー、ヘンリー・メヒアに対し禁止薬物規定に関する3度目の違反があったとして永久追放処分を発表した。

 

 MLBが先のルールを採用したのは2006年。1回目は80試合の出場停止、2回目は162試合の出場停止、そして3回目は永久追放処分という罰則を設けた。過去に筋肉増強剤のスタノゾールと運動能力強化薬物のボルデノンの陽性反応が確認されたメヒアは、性懲りもなく同じ薬物を使用していたようだ。野球選手にとっては極刑とも言える永久追放の規定を知りながら、なぜクスリを絶てなかったのか。そこに薬物依存の恐ろしさが見てとれる。

 

「メジャーリーガーの85%がステロイドを使用している」。ウォールストリート・ジャーナル紙上(02年6月7日付)にて衝撃的な告白を行い、全米を震撼させたのが、MLB史上初の「フォーティー・フォーティー」(40本塁打以上、40盗塁以上)を達成したホセ・カンセコだ。彼はのちにステロイド注射の常習犯としてマーク・マグワイア、ジェイソン・ジアンビ、ラファエル・パルメイロ、イバン・ロドリゲスらの名前をあげた。

 

 85%という数字が正確かどうかはともかくカンセコの暴露は大げさではなかった。98年、MLBは“世紀のマッチアップ”に酔い知れる。マグワイアとサミー・ソーサがMLBの年間ホームラン記録を揃って更新した。そして01年、バリー・ボンズが73本のホームランを放つ。後に3人とも薬物使用が判明した。

 

 だがMLBに薬物使用に関するルールが設けられたのは06年からだから、それ以前に遡って彼らを罰することはできない。

 

 MLBは94年から95年にかけてのストライキで大幅に観客を減らした。失地回復のためには、どでかいホームランと100マイルの快速球が必要だった。

 

 そこに薬物が介在していたことを球団や機構が知らなかったわけがない。当時のダグアウトやロッカールームの状況を知る多くの者が証言している。倫理上は許されないとしても、興行的には必要悪――。要するに見て見ぬ振りをしていたのだ。禁止薬物に関するルールが設けられる前とはいえ、頬かむりを決め込んだ経営側にも相応の責任はあろう。ドラッグボールの最大の受益者は誰だったのか。MLBが“負の歴史”と真摯に向き合う日はやってきそうにない。

 

<この原稿は16年2月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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