いよいよ27日、2016明治安田生命Jリーグが開幕を迎えます。J1は今季も2ステージ制を採用するにあたって、どのクラブも初戦は是が非でも勝利を掴みたいはすです。キャンプや練習試合を通して連携がしっかりできているチームは当然、スタートを上手く切ることができます。一方で、チームコンセプトが選手に伝わっていないチームは不安を抱えたままの船出となるでしょう。

 

 盤石の広島、戦力充実の鹿島

 

 今年も昨季のリーグ王者・サンフレッチェ広島は強いですね。広島に対抗してくるのが、うまく補強を進めた鹿島アントラーズでしょう。

 

 広島を大本命に挙げる理由は2つあります。1つ目は、チームコンセプトが全員に浸透していて、攻守に抜群の安定感があります。2つ目としてチームのフロント・強化側の考えと、森保一監督が現場で進めているプランがすごくフィットしているように感じますね。昨季、21得点を記録したFWドウグラスが移籍してしまいましたが、FWピーター・ウタカ(前清水)とFW宮吉拓実(前京都)を補強しました。広島は毎年、主力選手が抜けて駒が足りなくなったポジションを的確に補強しています。

 

 そして勢いのある若手も多いのも強みです。U-23代表組のFW浅野拓磨、MF野津田岳人がいます。中盤の守備の要MF森崎和幸の後継者として、ディフェンダーもボランチもできる19歳MF宮原和也の存在は面白いと注目しています。広島は若返りを図らないといけない時期に差し掛かると思うのですが、世代交代はスムーズに移行していくでしょうから、抜け目がないですね。

 

 対抗馬に推す鹿島も今季はかなり期待できますね。MF本山雅志、FWダヴィが抜けましたが、鹿島にもU-23の活きの良い若手が集まりました。元々、在籍しているDF植田直通に加え、新たにGK櫛引政敏とMF三竿健人の2人が入団しました。GKのポジションにはベテランの曽ヶ端準がいます。櫛引の加入が発奮材料となり、良い効果をもたらしてくれるのではと思います。植田の成長のお陰で、センターバックは激戦区です。昨年レギュラーのDFファン・ソッコは負傷で離脱していますので、おそらく開幕スタメンは厳しいでしょう。DF昌子源が軸として、植田にもチャンスが回ってくる可能性は高い。植田の若さで前へ前へと積極的にボール奪取にチャレンジをし、昌子が後ろでうまくサポートしてほしいですね。

 

 攻撃陣はFW金崎夢生が完全移籍で加わったのが大きいです。昨季の彼はレンタル移籍での加入でしたが、鹿島の攻撃を牽引してくれました。27歳となり、技術、体力ともに脂が乗っています。彼の後ろ姿を見ながら昨年ルーキーでブレイクしたFW鈴木優磨あたりは、「自分には何ができるのだろうか、何をすべきなのか」と感じ取って、さらに成長してほしいですね。

 

 中盤は湘南ベルマーレからMF永木亮太を獲得しました。彼はおそらく、MF小笠原満男の後釜として期待されているのでしょう。この獲得は世代交代の象徴かなと思います。要所を抑えたポジショニング、豊富な運動量が永木の持ち味です。それこそ献身的に走り、相手の芽を摘むという鹿島の石井忠正監督の現役時代と被る。永木のプレーを見て「ああ、石井監督に似ているなぁ」と、僕は勝手に思っています(笑)。

 

 台風の目は新潟

 

 そして、台風の目になると期待しているのがアルビレックス新潟ですね。優勝は厳しいかもしれませんが、覚醒してほしいなという思いがあります。FW鈴木武蔵が暴れ回るのではないかと期待しています。相変わらず新潟のサポーターは熱いですし、良いスタートが切れて勢いに乗れたら一気に駆け上がっていく気がします。ある意味、2ステージ制に向いているクラブかもしれないですね。

 

 ここまでは注目チームを挙げてきましたが、個人的に注目している選手は川崎フロンターレの大久保嘉人です。今年の大久保は4年連続得点王とJ1最多得点記録と2つの記録がかかっています。果たして今シーズンはどこまでいくのか(笑)。他の選手では到底追いつけないところまで辿り着くのか、それとも足踏みをしてしまうのか。今季の大久保の活躍に期待しています。

 

 今季から大宮アルディージャ、ジュビロ磐田、アビスパ福岡がJ1に復帰しますが、厳しい戦いになるのではと思います。他のJ1チームが若手に切り替わる時期が終わって安定期に入ってしまっているのが理由の1つです。もう1つはJ1とJ2のプレースピードの差に戸惑うでしょう。そこで結果を求めるためにキャンプで行ってきた戦術を変更してしまうと、チームがまとまらないうちに1stステージは終わってしまいます。チームを良くしようとして戦術変更に着手するのですが、選手が混乱して負の連鎖に陥ってしまうことが多々あります。僕は、昇格組は苦戦を強いられるのではと見ています。

 

 J2に目を向けると、清水エスパルスが今年はJ2で開幕を迎えます。清水は1年で戻ってくると予想しますが、もし戻って来られなかったら、東京ヴェルディと同じ末路を辿ると思います。先ほども言いましたが、J1とJ2ではプレースピードが違います。清水の選手たちには、まだJ1でのプレースピードが体に染みついているはずです。J1のスピード感を維持して1年を走り切らないと、今度はJ2のスピードに慣れてきてしまいます。その慣れが一番怖いですよね。

 

 今年はリーグをあげて若手育成に力を入れていますね。ガンバ大阪、FC東京、セレッソ大阪がU-23チームを作ってJ3に参戦し、サテライトリーグが復活します。とても素晴らしい試みだと思いです。昨年の寄せ集めのJリーグ・U-22選抜と違い、きちんとそれぞれのチームコンセプトを軸に年間を通して戦える。1つのチームとして自分を表現する場所があるのですから、若手のモチベーションは上がりますよね。「ここで魅せてやる! やってやる!」という奮起に期待したいです。

 

 ファン、サポーターも今から開幕が待ち遠しくてワクワクしているでしょう。僕もとても楽しみです。いつになっても、Jリーグの開幕は良いものですよね。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから