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(写真:「自分は置いただけ。ラッキーだった」と堀江主将<下>が振り返るチーム初トライ)

 スーパーラグビー(SR)の開幕節が27日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、日本のヒト・コミュニケーションズ・サンウルブズと南アフリカのライオンズが対戦した。試合はサンウルブズが前半6分にPGで3点を先制。しかし、ライオンズに2トライを許すなど、6-12で試合を折り返す。サンウルブズは後半18分に初トライを奪ったものの、1人少なくなったところで再び突き放された。13-26で敗れ、初参戦のSRは黒星スタートとなった。サンウルブズの第2戦は3月12日、シンガポールで南アフリカのチーターズと対決する。

 

“ブライトンの奇跡”から5カ月以上が経ち、日本vs.南アフリカが再び実現した。今度はナショナルチームでなく、クラブチームとしての対決だ。日本チームが世界最高峰リーグであるSRに参戦したことで、この機会を得た。

 

 昨秋のW杯以降、日本のラグビー熱は高まっており、試合の前売りチケットは完売した。日本ラグビーの新たな歴史をその目に焼き付けようと、会場となる秩父宮ラグビー場には多くの観客が詰めかけた。キックオフ時刻が近づくころには最寄りの外苑前駅から会場までの道のりも、その人たちでごった返していた。

 

 サンウルブズのスコッドは、快進撃を見せたジャパンからHO堀江翔太キャプテンを筆頭に、PR稲垣啓太、LO大野均、SH日和佐篤、WTB山田章仁ら10名がメンバー入りしている。サモア代表のSOトゥシ・ピシ、アメリカ代表のFLアンドリュー・デュルタロを合わせれば計12名のW杯戦士がサンライズレッドの真新しいユニホームに身を包んだ。

 

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(写真:先制のPGを決めるピシ。日和佐とともに攻撃を操った)

 朱色の戦闘服を纏った狼たちは、新たな歴史を刻むべくピッチを駆け抜けた。前半5分、敵陣22メートルライン付近で相手が反則し、ペナルティーを得た。正面やや左の位置、迷わずショット(PGを狙うキック)を選択した。これをSOトゥシ・ピシが落ち着いて決めた。3-0とサンウルブズが先手を取った。

 

 幸先良くリードを奪ったものの、徐々にライオンズの圧力に押されていく。やはり1対1のフィジカル勝負では分が悪い。自陣で反則を犯す場面もあった。9分と13分、相手にPGのチャンスを与えてしまう。比較的イージーな位置であるにもかかわらず、ライオンズのSOエルトン・ヤンチースはキックのタッチが悪いのか、どちらも枠から外れた。

 

 だが、獅子たちは眠ったままではいなかった。18分、サンウルブズはライオンズにラインアウトからのモールで自陣右サイドを攻め込まれる。ここは耐え切れずゴールラインを越され、最後はHOロビー・クッツェーにトライを奪われた。コンバージョンキックはヤンチースが外したものの、3-5と逆転を許した。33分には中央からSHファフ・デクラークが左に展開。ヤンチースが短いパスでWTBコートナル・スコーサンに繋いだ。スコーサンはディフェンスラインを斜めに切り裂き、インゴール左と飛び込んだ。今度はヤンチースがコンバージョンをきっちり成功させ、スコアは3-12と点差は開いた。

 

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(写真:CTBで出場した立川は攻守で体を張っていた)

 38分にピシのPGで6-12としたものの、前半はリードを許したまま終えた。すると後半開始早々にはFLヤコ・クリエルにトライされ、ゴールも合わせて6-19と突き放された。

 

 敗色ムードが漂いつつあったが、1万9814人の観客の多くはサンウルブズの勝利を見に来た。その声援は堀江が「僕らのモチベーションになった」と語ったように選手たちを後押しした。8分、インゴール付近のスクラムでライオンズをサンウルブズが押し勝つ。相手のファウルを誘い、ボールを奪い返した。これにはスタンドも大きく沸いた。

 

 勢いに乗るサンウルブズは18分、連続攻撃で敵陣深くへと侵入した。最後は日和佐が堀江へアシスト。至近距離からの速いパスをキャッチした堀江は、インゴールに飛び込んだ。サンウルブズのファーストトライはキャプテンが手にした。「チームで動いた」という価値ある得点。コンバージョンキックもピシが決めて、再び6点差に迫った。

 

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(写真:SRデビューとなった選手たち<左から笹倉、垣永、大野>。敗れはしたものの、表情は暗くない)

 しかし、反撃もここまでだった。25分に司令塔のピシがシンビン(10分間の一時退場)を食らい、数的不利の状況に陥った。踏ん張っていた守備陣も堪え切れなかった。途中出場のPRジャック・ファンルーエンに力勝負でぶち抜かれると、CTBライオネル・マブーにトライを奪われた。結局、13-26のダブルスコアで敗れた。

 

 完敗ではあったが、チームの始動は今月上旬。準備期間もままならない中で、奮闘したともとらえることはできる。サンウルブズのヘッドコーチ(HC)を務めるマーク・ハメットは「選手は100%出せた。戦えることが分かったのが収穫。短い期間でよくできた」と手応えを掴んだ様子。キャプテンの堀江も「フィジカルで食い込まれ、何度もゲインを切られた。それでも何度も立ち上がり、挑み続けた。信頼できる仲間が増えた。結果が出なかったことは残念だけど、歩みを止めず歩き続けたい」と前を向いた。

 

 ボーナスポイントもなく勝ち点はゼロだったが、試合で得られたものは少なくないはずだ。攻撃ではLOリアキ・モリ、CTB立川理道らがラインブレイクを見せるなど、ライオンズ守備陣を脅かす場面もあった。敵将のヨハン・アッカルマンHCからは「タフな試合をさせられた。情熱と気合いが入っていた」と称えられたサンウルブズ。戦いはまだ始まったばかりだ。タフなシーズンはこれからも続く。世界レベルを肌で感じられる一戦一戦の経験が、血となり肉となる。

 

(文・写真/杉浦泰介)