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(写真:ミドル級の村田もロンドン五輪金メダルを経て、プロに転向した)

 ボクシング界が大きく変わることになるのかもしれない。そんな提案がアマチュアボクシング側からなされた。

 

 アマチュアを統括するAIBA(国際ボクシング協会)の呉経国会長が、こう発言したのだ。

「すべてのボクサーに五輪への門戸を開きたい。プロボクサーの五輪参加を全面解禁する規定改正案を臨時総会に提出する」

 

 これまで五輪競技に出場するのはアマチュアのボクサーに限られていた。プロの選手は出場できない。だが、これは決して理不尽なことではなく、五輪でのメダル獲得を経て、プロデビューすることはボクサーにとってのひとつのステータスとなっていたのである。モハメド・アリ、シュガー・レイ・レナード、オスカー・デラホーヤ……数多くのボクサーたちがアマチュアボクサーとして五輪に出場し活躍、その後にプロのリングに厚待遇で上がるという流れができあがっていたのだ。現在の日本に目を向ければ村田諒太が、それに当てはまる。

 

 では今回のAIBAの提案には、どのような意味があるのか?

 おそらくは五輪において、これまで以上にボクシング競技を盛り上げたいとのAIBAの目論見であろう。現役のプロの世界チャンピオンが出場するとなれば、それは、バスケットボールにおいて「NBAドリームチーム」が1992年のバルセロナ五輪に米国代表として参戦した時のような衝撃を与えることができる。だが、そんなことが本当に実現するのであろうか。

 

 プロ参戦への壁

 

 プロボクシングの世界チャンピオンは、防衛戦を行う中で高額のファイトマネーを獲得する。そんな選手がアマチュアボクシングのルールの下で五輪出場を目指して予選から闘い続ける道を選ぶのであろうか。たとえば山中慎介や内山高志が、五輪出場を求めるかという話だ。それは無いだろう。

 

 しかし、こう考えることもできる。

 AIBAが本気で五輪へのプロ選手の参戦を望むならば、ルール変更に踏み切ることも有り得る。これまでアマチュアボクシングはヘッドギアを着用するなど選手の安全面を考慮したルールを作成してきた。それを一気に取り除くという流れだ。

 

 五輪においては、プロに近いルールを設定し、また五輪で金メダリストになることに多大なる金銭的なメリットを付与するならば状況は一変するかもしれない。そうなれば、これまでプロとは一線を画してきたアマチュアボクシングの存在自体が問われることにもなるのだが……。この呉会長が表明した提案は、5月下旬に開かれるAIBA臨時総会での投票により決議されることになる。推移を見守りたい。

 

 最後に悲しいニュースをお伝えしなければならない。

 

 日本武道傳骨法會の創始師範・堀辺正史氏が昨年12月26日に急性心筋梗塞により亡くなられていたことが3月2日に公にされた。取材、酒席等を通して30年にわたり多くのことを学ばせて頂いた。堀辺師範は日本を、そして武道を心から愛されていた。有難うございました。ご冥福をお祈りいたします。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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