(写真:アレックス・ロドリゲスと並び、NY野球界最大のビッグネームとなったマット・ハービーは今年も多くの話題を提供してくれるか Photo By Gemini Keez)

(写真:アレックス・ロドリゲスと並び、NY野球界最大のビッグネームとなったマット・ハービーは今年も多くの話題を提供してくれるか Photo By Gemini Keez)

 2016年はメッツにとって収穫の年――。昨季、2000年以来のワールドシリーズ進出を果たしたタレント集団は、近年最高の前評判で今季開幕を迎えることになる。最近ではニューヨークでの注目度もヤンキースに勝るとも劣らず、メッツの選手たちが地元紙の見出しを飾ることも多い。

 

 しかし、それだけ期待度が高いということは、プレッシャーも厳しくなる。“必勝”の重圧に包まれる中、メッツは2年連続プレーオフ進出を果たせるのか。中でもメジャー最高級の評価を勝ち得る先発陣は、地元ファンを喜ばせる結果を出せるか。今回は今季に向け、メッツの4つの見どころをピックアップし、躍進チームの行く末を予想していきたい。

 

すべては豪華ローテーション次第

 

 チーム最大の見どころが、“メジャー最高”と称される先発投手陣であることは言うまでもない。

 速球の平均球速を見ても、マット・ハービー(95.9マイル)、ジェイコブ・デグロム(94.9マイル)、ノア・シンダーガード(97.1マイル) の3本柱は昨季すべてリーグ5位以内(140イニング以上を投げた先発投手中)。その後に、こちらも速球は常時94~96マイルを掲示する大型左腕のスティーンブ・マッツが続き、背後には 大ベテランのバートロ・コローンも控える。

 

 昨季14勝を挙げたコローンが5番手を務める先発陣は驚異。さらに6~7月には、トミー・ジョン手術を受けて昨季を棒に振ったザック・ウィーラー(2014年の平均球速95マイルはメジャー5位)も復帰してくる。

 質量ともに豊富なこの先発陣を、ESPN.comのバスター・オルニー記者は全30チーム中で1位にランク。まだ若い俊才たちが順調に伸びれば、2016年のメッツ先発陣は“史上最高”と呼称される可能性すらあるだろう。

 

(写真:100マイル以上の速球を軽々と投げ込むシンダーガードにとって、怖いのは疲労と故障くらい Photo By Gemini Keez)

(写真:100マイル以上の速球を軽々と投げ込むシンダーガードにとって、怖いのは疲労と故障くらい Photo By Gemini Keez)

 もっとも、不安材料がないわけではない。トミー・ジョン手術から復帰1年目のハービーは昨季に216イニングを投げた。デグロム、シンダーガードの投球回数も、前年比でそれぞれ75.2、65イニングの増加。去年に予想外の形でワールドシリーズまで突っ走った疲れが、今季に出ても不思議はない。

 

 チームの生命線である先発投手たちを保護するべく、テリー・コリンズ監督の起用法にも注目が集まる。ウィーラー復帰後もコローンを先発に残し、6人ローテーションを採用することもあり得そうだ。

 

昨季成績       先発数 勝敗   防御率

ハービー    26歳 29戦 13勝8敗  2.71

デグロム    27歳  30戦 14勝8敗  2.54

シンダーガード 23歳  24戦 9勝7敗  3.24

マッツ     24歳 6戦   4勝0敗  2.27

コローン    42歳 33戦 14勝13敗   4.16

ウィーラー   25歳 昨季登板なし

 

ブルペンはどうなる?

 

 先発投手たちの負担を減らすため、今季はブルペンの働きも重要になる。

 オフにパワー左腕のアントニオ・バスタルドを2年1200万ドルの好契約で獲得し、アディソン・リードとも再契約。昨季に無失点のまま左腕骨折で離脱したサウスポーのジェリー・ブレビンスも、戦列に戻ってくる。

 

 ブライス・ハーパー(ナショナルズ)、フレディ・フリーマン(ブレーブス)といった地区内の左の強打者を封じるために、バスタルド、ブレビンスの存在は心強い。抑えの切り札として確立したジェリウス・ファミリア次第だった去年と比べ、層が厚くなったことは間違いない。

 

 もっとも、ペーパー上は充実した陣容を揃えても、ブルペンの働きは思惑通りにはいかないもの。去年もシーズン中に獲得したタイラー・クリッパード(現ダイアモンドバックス)が、意外なまでの不調を囲ったことは記憶に新しい。

 

 今年もシーズンが進むにつれ、誤算は間違いなく出てくるだろう。必要箇所をシーズン半ばに首尾よく埋めるべく、サンディ・アルダーソンGM以下、フロント陣の手腕が改めて問われることになる。

 

昨季成績      登板数 セーブ 防御率 

ファミリア  26歳  76   43  1.85       

バスタルド  30歳  66   1  2.98    

リード    27歳  55   4  3.38   

ブレビンス  32歳  7   0  0.00

 

セスペデスは猛打を再現するか

 

(写真:自由奔放な行動も目立つセスペデスだが、昨季同様に働けば誰にも文句は言われないはずだ Photo By Gemini Keez)

(写真:自由奔放な行動も目立つセスペデスだが、昨季同様に働けば誰にも文句は言われないはずだ Photo By Gemini Keez)

 昨季のメッツにとっての最大のターニングポイントは、トレード期限直前にヨエネス・セスペデスを獲得したことだった。7月31日に電撃移籍後、最初の41試合で17本塁打、OPS.891と爆発。チームを地区優勝に押し上げ、派手好きのキューバ人外野手は地元の新センセーションになった。

 

 

 FA になった今オフには再度の移籍が有力視されたが、1月26日に3年7500万ドルで再契約。主砲の残留を熱望していたニューヨーカーたちを安堵させるとともに、打線にも1本の大きな線が通った。

 

 ただ、大都市での初のフルシーズンとなる今季に向け、懸念材料も見え隠れする。昨季後半は前述通りに大車輪の活躍だったが、プレーオフでは打率.222、2本塁打と失速。FAとなった今オフの争奪戦が盛り上がらなかったのは、この波の大きさがゆえだろう。

 

 今季は得意なレフトではなく主にセンターでの出場が予定されており、守備面でも一抹の不安が残る。春季キャンプ中に複数の高級車を乗り回すなど、さまざまな話題を振りまいているが、パフォーマンスが低下すれば、これらの破天荒な行動は首脳陣の頭痛の種になりかねない。

 

 すべてを考慮して、3年契約に今季終了後のオプトアウト権を含めたのはメッツの選択は正しかった。実際は1年契約も同然で、来オフにセスペデスがさらなる好契約をゲットできるかは今季の活躍次第。気分屋のスラッガーがモチベーションを保てば、2016年もファンが喜ぶ結果が出る可能性は高いはずだ。

 

昨季成績  試合数 打率 本塁打 打点 出塁率 OPS

セスペデス  159  .291  35  105  .328  .870

 

カンフォートは想定通りに伸びるか 

 

(写真:期待の大器カンフォートの今後は楽しみ Photo By Gemini Keez)

(写真:期待の大器カンフォートの今後は楽しみ Photo By Gemini Keez)

 オフ開始当初、ファンのラブコールとは裏腹に、実はメッツはセスペデスの引き留めにそれほど熱心ではなかった。その理由は、2年目を迎えるマイケル・カンフォートの成長に自信を持っていたからだと言われる。

 

 昨夏にメジャー昇格した期待のプロスペクトは、シーズン残り試合でOPS.841と優れた数字をマーク。豪快な試合前の打撃練習でも話題を振りまいた。ワールドシリーズ第4戦でも2本のホームランを放ち、その名前を知らなかった全米のファンを驚かせたのは記憶に新しい。

 23歳になったばかりの割に精神的に成熟し、広角に打ち分けるうまさを備えている。スキル、パワー、落ち着きが評価され、今年の夏過ぎにはカンフォートがメッツのベストヒッターになっていることを予想する関係者すらいる。

 

 逆に言えば、この大器が“2年目のジンクス”に苦しむようなことがあれば、メッツ打線は厳しくなる。故障上がりのデビッド・ライトの計算が立ちづらい中で、確実性のある打者がもう1枚は必要。得点力維持のため、カンフォートの順調な成長は不可欠に近い要素と言えるかもしれない。

 

昨季成績  試合数 打率 本塁打 打点 出塁率 OPS

カンフォート 56   .270   9    26   .335  .841

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
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