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(写真:山口氏<左>と上野氏にadidasのサッカーテクノロジーについて訊いた)

 adidasは今冬、これまでの常識を覆すようなサッカースパイクを送り出した。それは「パーフェクトなボールコントロールを可能にするシューズ」。サッカースパイクのアッパー部分にニット素材を採用し、くるぶし部分にはソックス調のパーツを搭載させ、靴ひもを無くした。今回の対談は「SOCCER SHOP KAMO 原宿店」の地下1階にあるサッカーシューズ工房「adidas Craftsman Center」で実施した。新シューズの開発に携わった山口智久(アディダス ジャパン株式会社フットボール ビジネスユニット シニアマネージャー)と、数々のサッカープレーヤーの足を見てシューズの調整を行う上野浩二(アディダス ジャパン株式会社Craftsman Center)。2人のサッカーシューズのプロフェッショナルに二宮清純が迫る。

 

 

adidas史上、最もイノベーティブなスパイク

 

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(写真提供:adidas)


二宮: まずこちらの「ACE16.1-JAPAN HG PRIMEKNIT」についてお聞きします。具体的にどのあたりが新しくなったのでしょうか。
山口: 今回はニットの素材生地をアッパーに搭載しました。このニットは全て1本の糸で編み上げられています。これにより、ニットの特性である柔らかさ、伸縮性を活かして足へのフィット感が増しました。

 

二宮: サッカーのスパイクにニットを用いるとは斬新ですね。
山口: そうですね。ただボールを蹴る部分にはいろいろな衝撃がかかります。ニットは履き心地が良いと言っても、消耗が早過ぎて破れてしまってはいけません。その点をカバーするために樹脂素材のフィルムを上からコーティングすることで耐久性や形状維持性を高めるという工夫をしました。

 

二宮: ニットということですが撥水性はいかがでしょうか。
山口: 通常のニットだけですと、水を吸って重くなってしまいますが、樹脂をコーティングすることでかなりニットのマイナス面をカバーできました。

 

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(写真提供:adidas)

二宮: 足首部分にソックス調のデザインのものがついていますが、これもニット素材ですか?
山口: そうです。これはコンプレッションフィットアンクルといいます。選手が激しい動きをした時にシューズのくるぶし部分と足の間に少しギャップができてしまうんです。コンプレッションフィットアンクルによってシューズと足首の一体感が高まるのが特徴です。

 

二宮: コンプレッションフィットアンクルは選手からの提案がもとになっているのでしょうか。
山口: はい。選手のこだわりとしてよく耳にするのが、フィット感や安定感といった要素です。「シューズと足がブレなくて、一体化されたものを履きたい」との要望はプロアマ問わず、常時ありました。そのリクエストにどう応えられるかという議論のもと、ソックス一体型のスパイクというアイディアに至りました。

 

二宮: ではソール部分は以前のものと同じなのでしょうか。
山口: ソール部分は15年秋冬モデルから同じです。通常のスパイクは約13~14本のスタッドがついていますが、この「ACE16.1-JAPAN HG PRIMEKNIT」には約3倍の43本のスタッドがついています。接地面積が広く動きが安定しますし、ボールを足裏でコントロールしやすい構造になっています。

 

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(写真提供:adidas)

二宮: こちらの「ACE16+ PURECONTROL FG/AG」は、紐がないですよね。
山口: 「SOCCER SHOP KAMO」さんと弊社直営店だけの120足限定販売というプレミアムモデルなんです。「ACE16+ PURECONTROL FG/AG」のコンセプトは足との一体感です。一枚の素材で靴紐をなくすことで、素足の感覚でボールをコントロールできます。

 

二宮: ソックスにアウトソールがついたような印象を受けます。
山口: 素足感覚でのボールタッチというのを追求した、ここ数年でもっともイノベーティブなスパイクです。


二宮: 一般的なイメージだと紐でしっかり締めますが、無くても大丈夫なのでしょうか。
山口: 本来はシューズの紐で調整をするのですが、アッパー部分の凝縮させたニット素材が伸縮することで足の甲にフィットします。選手の声も聞いたのですが、「一体感や素足感が高まった」というポジティブな声の方が多かったですね。

 

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(写真提供:adidas)

二宮: 「ACE16.1-JAPAN HG PRIMEKNIT」に比べてスタッドの数が少ないですね。
山口: こちらは天然芝仕様のスパイクです。天然芝仕様のスパイクはスタッドが芝に突き刺さることでグリップ力が増します。本数の少ないスタッドを高く設定することで芝への突き刺さり感をアップさせる狙いです。

 

最高の機材が揃うadidas Craftsman Center

 

二宮: なるほど。こちらのadidas Craftsman Centerは、その場でユーザーからの「もうちょっとこうしてください」というリクエストに応えているわけですね。
上野: そうですね。購入されたお客様がもっとシューズを良くしたい場合に利用して頂いたり、最初に3Dで足型を計測して、お客様の足に合うシューズを一緒に選んだりします。

 

二宮: 3Dで足を計測できるんですか?
上野: はい。二宮さんもやってみますか?

 

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(写真:3Dでの足型計測は片足十数秒でできる)

二宮: せっかくですから、ぜひお願いします。
上野: では、まずこちらに右足を入れてください。光で足をスキャンして立体的な足型を計測します。では、反対の足ですね。

 

二宮: もう右足ができた。これでサイズもわかるんですよね。
上野: はい。大きさも、足の幅も、甲の高さなど細かくわかります。

 

二宮: 私の足は何センチですか?
上野: 左足が25.1センチ、右足が25.29センチです。右足の方が約2ミリ大きいですね。足自体はそこまで広い足ではなくて、スリムな足ですね。

 

 

二宮: 右と左で約2ミリ違いますか。
上野: 2ミリであれば差は少ないほうだと思います。サッカーをプレーされている方だと5ミリ、あるいは1センチ差がある方もいます。軸足との関係や、ポジションにもよると思います。サイドプレーヤーは片側に負担がかかることが多いですから。

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(写真:近年の日本人の足幅は細い。生活様式と共に足型も欧米人に近くなっている)

 

二宮: 私の足は一般的な足でしょうか。
上野: 平均より少し細いくらいです。あとは、少し甲が高いですね。

 

二宮: 甲が高いのは良いんですか?
上野: 甲が高すぎるとシューズが履きづらかったり、足の負担がかかりやすかったりします。

 

二宮: 病院のカルテみたいですね。これを参考に医療器具を選ぶように最適なシューズを選んだり、補修したりするんですね。
上野: そうですね。まずデータを基にお客様の足の特徴を説明します。そこから足に合うシューズを一緒に選んだり、シューズの調整をしたりします。


二宮: このデータを基に工房で調整するんですか?
上野: はい。機械でシューズの足幅を広げたり、レーザー加工機で名前を掘ったりします。

 

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(写真:シューズの幅を広くする上野氏。縫い目を増やしてシューズをタイトにすることも可能だ)

二宮: どういったオーダーが多いのでしょうか?
上野: 最近の高校生などはそこまでタイトなシューズが好みじゃないようです。何週間か履きこんだ感じに仕上げると凄く喜んでくれます。昔はカンガルー革や牛革のピチピチのスパイクを選んで、履いて伸ばして足に合わせていたんですけどね。
山口: そういう傾向もあってニットという素材を採用しました。素材がニットだと最初からゆとりをもって快適に履いて頂けます。昔だと最初は我慢しながらシューズを履いて、革が自分の足に馴染んでくればちょうど良いサイズになるというのが一般的でした。今はだいぶ傾向が変わりましたね。

 

 

 

 

二宮: 今回新発売の「ACE16.1-JAPAN HG PRIMEKNIT」と「ACE16+ PURECONTROL FG/AG」についてユーザーから何かオーダーはありましたか?

上野: 両方発売して間もないですが、この2種類のシューズに関しては「調整してくれ」という要望はまだ受けていないです。それだけ皆様の足にフィットしているのでしょう。
山口: 購入した時点でストレスなく快適な履き心地が得られるというところを凄く重視しました。そういったところが結果に結びついているのでうれしいですね。


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