kakihara「『氣』ってなんだろう?」

 がんになってから色んな治療に取り組んでいるが、最近「気になる」のが、「気功治療」だ。正直、治療院の広告には怪しい雰囲気のものもあって、なかなかチャレンジする機会はないが、凄く興味はある。僕は「氣」というものにどこか魔法的な要素を感じているのかもしれない。

 

 考えてみると日常生活の中で、「気」という言葉はよく使われる。「気を使う」「気が滅入る」「気がふれる」「気落ちする」「気になる」「気が抜ける」「気を配る」……。無限に出てくるほど僕たちの生活に溶け込んでいる。ということは、「氣」は身近にあるものに違いない。目には見えないが、きっと自分のカラダの中にあるのだと思う。その「氣」が弱っている状態が、「病気」なのかもしれない。「氣」の正体が、肉体そのものではないのだとすれば、薬は対処療法に過ぎない。つまり、「氣」を復活させてこそ「元気」になれるのだ。

 

 では、どうやって病にかかっている「氣」を治すのか?

 

 おそらく良い「氣」をカラダから充満している人と会うことが一番ではないかと思う。やはり、元気な人や子どもと触れ合うと気分が晴れやかになるからだ。子どもの無邪気な姿からエネルギーをもらえるのは、これまで昆虫イベントをやってきて何度も経験している。夏の間、ハードにイベントが続いても一切疲れなかったのは、子どもたちのおかげだったように思う。

 

 子どもたちからの元気をチャージさせてもらうのも良いが、人気のある人の持つパワーは更に上をいく。特にスターと呼ばれる方たちは全身から物凄いオーラを発している。見るからに良い「氣」を浴びることができそうだ。人気のタレントやスポーツ選手に握手をしてもらおうと群がるのは、きっとそのパワーを分けてもらおうと本能がそうさせているのかもしれない。その意味で考えると日本で一番スゴイ「氣」を持っているスーパースターはあのお方しかいないだろう。

 

「元気ですかぁ~~!」でお馴染みのIGFのアントニオ猪木会長である。

 73歳の現在も政治活動をはじめ、世界中を忙しく飛び回っているのだから恐れ入る。一般的に高齢者と言われる年齢とは思えないほど精力的に動いているのだ。猪木会長のツイッターをのぞくと毎回、「元気ですかー?」のお決まりの言葉が発せられている。その言動を追っているだけで気分が高揚するから不思議だ。

 

 僕は病気になってから毎日、『猪木語録』(扶桑社)も開くようにしている。松岡修造さんの日めくりカレンダーよろしく、毎日ポジティブな猪木語録が並んでいるからだ。

 

「道はどんなに険しくとも笑いながら歩こうぜ」

「己の目標に向かって、ゼイゼイと息切れするまで突っ走ってみろ!」

「地に落ちたとしても、どうってことねえ」

「私に言わせれば限界なんて言葉はこの世にない」

「『やれたらやる』ではなく『やる』のだ」

「何でもいいから一つムダだと思うことを一生懸命にやってみること」

「さあ、やるんだ。やり抜くのだ」

「常識から1ミリでもいいから一歩を踏み出せ」

「大切なのは、昨日じゃなくて今日、今なんだ」

 

 これらの言葉に自身の体験も踏まえた解説がしっかり付いているからストレートに心へ届く。僕の病気は、どうしても深刻に考えてしまい、気持ちに波ができてしまう。そんな時こそ、この「猪木語録」なのである。365日、毎日欠かさず目を通すことで、心の不安は解消されていく。これを読むだけで、気持ちがメラメラと燃えてくるのだ。

 

「心と氣がシャキッとしていれば、どんな戦いでも乗り切れる」と「氣」についても触れている。本を読むだけで、こんなにも気持ちが高まるのだから、きっと本人と会ったら、病気で弱気になっている僕の「氣」もきっと覚醒するに違いない。

 

「猪木会長に会いたいなぁ」僕は心底願った。

 多忙な猪木会長と会うなんて簡単なことではないが、念ずれば叶うのである。

 

 なんと! あるお仕事でご一緒することが決まったのだ。自分でもこの幸運に本当に驚いた。「猪木語録」を読んでいたご利益か? まさに神風が吹いた感じであった。

「確実に自分には運が向いている。猪木会長から、何かひとつでも吸収しよう」

 

 僕はその日が来るのを指折り数えて待った。

 3月上旬。当日の朝、僕は某スタジオへと車を走らせた。

 

 こんなチャンスはめったにないと思い、息子も同行させ、到着するや否や控え室へとご挨拶に伺った。取り巻きのスタッフが新日本プロレス時代からの顔馴染みとあって、終始良い雰囲気で時間が流れた。僕は、闘魂注入ならぬ「元気」を注入してもらえたおかげなのか、自分の中に眠っていた「氣」が目覚めたのを感じた。

 

 やっぱり、最高峰のレスラーは別格だ! アントニオ猪木は本物である。僕は同じ新日本のリングで闘っていたことを今更ながら誇りに思った。それと同時にレスラーだった者として、「絶対にがんに負けられない」と湧き出るような感情が芽生えてきたのだった。

 

 この感情を忘れないためにも「元気ですか~?」を口癖にしようと思う。

 こんなに「氣」が呼び起こされる言葉は他にないだろう。

 

 僕は、この最強の言霊を味方につけて、病を克服するつもりだ。

 

(このコーナーは第4金曜日に更新します)


◎バックナンバーはこちらから