皆さん、こんにちは! 田口竜二です。いよいよプロ野球シーズンが始まりました。スタートダッシュを決めたチーム、少しつまずいたチームと明暗が分かれていますが、まだまだ長いシーズン。好きなチームを信じて応援していきましょう!

 

「自分には野球しかない」。こう考えて固執するのは、ネガティブで前を向いていないと前回のコラムで書きました。では、なぜ元プロ野球選手たちは、「野球しかない」という考えに縛られるのでしょうか?

 

 私は4年前から本格的にセカンドキャリア支援を始めました。多くの元選手たちから耳にした言葉があります。「自分は勉強ができない」「勉強が嫌い」、この2つの言葉です。たしかに自分の過去を振り返っても勉強は嫌いでした。しかし勉強が「できる」か「できない」か、「好き」か「嫌い」かは問題ではありません。勉強ができない、もしくは勉強が嫌いだから、「自分には野球しかない」と思い込んでしまう。それが問題なのです。

 

「勉強が嫌い」と言う彼らには、こんな質問をすることにしています。「運転免許を持っている人、手を挙げて」と。するとほとんどの人が手を挙げます。運転免許も交通法規の"勉強"が必要なのですが……。そこでさらに質問を続けます。

「勉強ができないのに、どうして免許が取得できたの?」

 彼らからは「車を運転したかったから」「彼女とドライブに行きたいから」「必要だと思ったから」と返ってきます。勉強が嫌い、座って何かを学ぶことが苦手。そう思い込んでいる彼らも、好きなこと自分がやりたいことのためなら勉強も苦ではないのです。

 

 そして話を続けます。
「君たちは勉強ができないんじゃない。学校で学ぶことに意味を見出せなかったからやらなかっただけ。それをイコール勉強ができない、頭が悪いと勝手に思い込んでるだけなのです」と。

 プロ野球選手の中には将来のためにきちんと勉強をしている人も存在します。でも多くの選手は「自分は勉強ができない。だから野球を一生懸命やるしかない」。自分にできる仕事=野球しかない、という間違った思い込みで野球を続けている、そんな側面も持っています。これがセカンドキャリアへ進む際の足かせにもなるのです。

 

 それにしても間違った思い込みって本当に怖いですよね。「自分はこうだ」「俺の考えがすべてだ」「自分は偉い」。そう思い込んだ瞬間、人としての成長が止まり、ときに人間関係を悪化させ、最悪の場合、未来への道が閉ざされることがあります。

 引退した選手が陥るもうひとつの思い込みが「今の自分には……」というものです。

 これからどうすべきかを考えるときに、多くの引退選手が「今」を考えます。その答えが「"今の自分には"野球か体を動かす仕事しかない」「"今の自分には"力仕事しかない」と、結論づけてしまいます。そうすると将来に続く道はとても狭く、着地点も限られてきます。

 

 セカンドキャリアで大切なのは、「未来を考える」ということです。私は元選手たちに、こんな質問をします。

「もし新しい人生の夢、ビジョン、目標を作って、そのために5年間がむしゃらに学んだら、君はどんな人間になっている? 野球か体を使うことしか選択肢はないだろうか?」

 こう聞くと、「いえ、いろんなことを覚えていて、野球しかないとか体を動かす仕事しかないとは考えないですね」と、未来を創造していく大切さについて考えてくれるようになります。

 

 セカンドキャリアを歩み出す彼らには、多くの可能性が残されています。未来は考え方次第で大きく変わっていくのです。「過去と他人は変えられない。でも未来と自分は変えられる」。私自身も野球とは異なる世界に飛び込み、自分を変え、未来を創造することができました。

 

 元選手のセカンドキャリアは、我々周囲の人間の接し方も大切になってきます。「お前たちは野球しかできないんだから……」ではなく、彼らの可能性を信じ、未来を変えるためのアドバイスをすること。思い込みを捨て去ることの必要性、そして捨て去る勇気を与えることも役割のひとつでしょう。

 次回も思い込みが未来を変えてしまう話を、さらに皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 

1600314taguchi田口竜二(たぐち・りゅうじ)
1967年1月8日、広島県廿日市市出身。
1984年に都城高校(宮崎)のエースとして春夏甲子園出場。春はベスト4、夏はベスト16。ドラフト会議で南海ホークスから1位指名され、1985年に入団し、2005年退団。現在、株式会社白寿生科学研究所人材開拓グループ長としてセカンドキャリア支援を行なっている。

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