160426溝渕試合前(加工済み) タイトなディフェンスでボールを奪うと、疾風の如く右サイドを駆け上がる。ボールを持てば、その推進力を活かしてチャンスが生まれる。彼の名前は溝渕雄志。慶應義塾大学ソッカー部の右サイドバックだ。現代のサイドバックに求められる1対1の強さ、縦への推進力を兼ね備えた21歳である。

 

 

 

 

 

 

 

<2016年5月の原稿を再掲載しております>

 

 溝渕は、全日本大学選抜にも選ばれるなど大学サッカー屈指のサイドバックだ。彼を指導する慶應ソッカー部の須田芳正監督も「まずはメンタルが非常に強いです。ここだっていう勝負のところでは本当に強い心を持って戦える。それに守備の所の速いアプローチ。そしてボールを持ったら迷うことなく縦に行ける。縦への推進力が彼の魅力ですね」と高く評価する。

 

 2016年4月16日、関東大学サッカー1部リーグ3節が行われた。連敗中の慶應は法政大学と対戦した。3月から溝渕を含む中心選手4人が全日本大学選抜のマレーシア遠征に招集された影響もあり、オフにチームでのすり合わせができなかった。ちぐはぐなまま開幕を迎えてしまっていた。

 

 それでも溝渕は勝利を手繰り寄せるべく、果敢に目の前の相手とのフェアなバトルを繰り広げていた。法政を攻めさせて自陣まで誘きだし、奪ってカウンターを仕掛ける。これが狙いだった。この戦術を採用できたのも、1対1で絶対的な強さを誇る溝渕の存在があってのことだろう。彼の貢献もあって、慶應は3戦目にしてようやく今季初勝利を手にした。

 

【自ら仕掛ける守備】

 

160426溝渕1対1(加工済み) 彼のプレーを見ていると、並々ならぬ守備へのこだわりがうかがえる。守備側の溝渕が積極的にボールホルダーに体を当てたり、足を出したりなど自ら仕掛けている姿が目につく。能動的な彼のディフェンスには理由がある。

 

「速く、そして近くまで寄せる。一歩以上離れると上手くて動きがキレている選手はいいパスを出せたり、シュートを打てたりできてしまう。(ボールホルダーと)距離を取っていれば抜かれることはないけど、打たせることが本当にチームにとっていい流れになるのかなと……」

 

 距離を取って相手に抜かれることはないが、シュートを打たれてしまうのは日本の選手に見られる一般的な守備の仕方だ。しかし、溝渕のディフェンスの考えでは距離を取ることはあまりしない。「バチバチやっている方がいいのかなと思います。アプローチは、一歩で相手のボールを突けるところまで行くというこだわりがある」と、むしろ距離を詰めて、1対1で激しく体を当てにいく。

 

 この守備は相手を食い止められる、何より数的不利でもボールを奪える。だが相手の懐に入る分、ボールホルダーがテクニシャンタイプだとすぐにかわされてしまう欠点もある。それでも溝渕は一発で抜かれる場面がない。なぜなら彼の速さと強さで補っているからだ。

 

「寄せる分、相手にボール一個分、ズラされることもあります。でも自分のアジリティと腕の強さでずっと体を寄せてついていける。だから(突破を試みてくる相手に)体をくっつけて離されないのは大事だと思います」と溝渕。ただボールを奪うことだけがタイトなディフェンスの理由ではない。

 

 続けて自身の守備論を教えてくれた。

「体をくっつけて、離されないようにしていると、マッチアップする相手のサイドの選手に嫌なイメージを植え付けられる。僕のことを“コイツ、めんどくせぇ”と敵に思わせると、内側にポジションを取り、僕のところから逃げ出す。相手が逃げた時にどうなるか。僕の前のスペースがガランと空く。こちらがボールを奪った時に僕のところにボールがきたら、もう相手は間に合いません。ファーストタッチでグッと前に出て置き去りにできる」

 

 体の強さ、サイドでの駆け引き、諦めずに相手についていくメンタル、俊敏性、推進力――。溝渕は自分の長所を最大限に活かして右サイドを攻守に渡り制圧する。サイドバックに適した人材だ。須田監督も「一番サイドバックに向いている体つきじゃないかな」と太鼓判を押す。だが、溝渕はサッカーを始めたころはサイドバックではなかったという。彼が当初、与えられたポジションとは……。

 

(第2回につづく)

 

<溝渕雄志(みぞぶち・ゆうし)プロフィール>

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 1994年7月20日、香川県高松市出身。小学1年からサッカーを始める。築地SSS-FC DIAMO-流通経済大学付属柏高。流経大柏高の1年時に夏から本格的にサイドバックへコンバート。3年時には12年プレミアリーグEAST3位にチームを導く。慶應義塾大進学後は1年時からトップチームの試合に出場し始める。4年時には全日本大学選抜にも選出された期待の若手サイドバック。身長174センチ、体重68キロ。

 

(文・写真/大木雄貴)

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