平均27.2歳。

 これは3月29日に行なわれたロシアW杯アジア2次予選シリア戦におけるハリルジャパンのメンバー23人の平均年齢である。

 

 W杯本大会まであと2年に迫る時期にザックジャパンがどうだったかと言えば、2012年2月29日のブラジルW杯アジア3次予選ウズベキスタン戦では25.8歳。比較するとハリルジャパンのほうが1歳以上、平均年齢が高い。

 

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「若手志向」であることは間違いない。しかしU-23世代以下の選手がなかなかA代表に定着してこない。3月はU-23代表の欧州遠征があったにせよ、その前に行なわれた候補合宿でもメンバー26人のうちリオ五輪世代は3人にとどまっている(植田直通、遠藤航、浅野拓磨)。4年前の清武弘嗣のように、五輪以前からA代表に食い込んでいる選手がいないという状況なのである。

 

 ハリルホジッチ監督はアルジェリア代表監督時代、メンバー平均26.1歳という若いチームでブラジルW杯に臨んでいる。まだ無名に近かったレスター・シティのリヤド・マフレズは当時23歳。W杯の大舞台を踏んだ経験も自信となって、今季の大ブレイクにつながった。

 

 若手志向の監督がいながら、リオ五輪世代の選手がA代表に食い込んでこない状況は一体、何を意味しているのか。A代表のレベルにまだ達していないのか、それとも現メンバーとの差がかなりあると見ているからなのか。

 

 最近、注目すべき発言があった。

 

 日本サッカー協会の霜田正浩ナショナルチームダイレクターがアジア2次予選を検証するブリーフィングの席で大久保嘉人がロシアW杯メンバーに招集される可能性について聞かれ、「2年後になれば状況も変わってくる」とコメントを残したというのだ。

 

 これはリップサービスの類ではない。大久保はJリーグ史上初の3年連続得点王という快挙を成し遂げ、今季も9ゴールを挙げて得点ランキングトップタイと好調だ。だが指揮官は大久保を代表候補合宿に一度呼んだのみで、これまで代表メンバーに選んだことはない。「もう少し若ければ」と、実力を評価しながらも年齢がネックになっていることを暗に示してきた。霜田ダイレクターはハリルホジッチ監督と常に考えを共有している間柄。ロシアW杯までこのような活躍が続けば、状況も変わる可能性があるというのはかなり踏み込んだ発言である。

 

 この背景には、若手アタッカーの“伸び悩み”があるのではないだろうか。

 今季のJリーグを見ても、J1得点ランキング10位以内につけている日本人選手は9得点で1位の大久保(33歳)を筆頭に、6得点で4位の金崎夢生(27歳)、興梠慎三(29歳)、5得点で9位の小林悠(28歳)、渡邉千真(29歳)と、23歳以下の日本人選手は1人も入っていない。J2もまた同様だ。ケガなど諸事情はあるものの、リオ五輪世代以下のアタッカーが思ったような結果を残せていないため、ハリルホジッチ監督も若手の招集に踏み切れないと言える。

 

 A代表は9月からアジア最終予選に突入する。
 前回とレギュレーションが変わり、1組5チームから6チームに増えた。確率が5分の2から6分の2になるため、計算上は前回より難しくなる。

 

 相手もW杯予選ではここ2大会で勝てていないオーストラリア、オランダ代表を率いて南アフリカW杯で準優勝したベルト・ファンマルバイクが指揮を執るサウジアラビア、昨年1月のアジアカップでPK戦の末に敗れたUAEと簡単ではない相手がそろっている。4年前よりも厳しい最終予選になると予想する関係者は少なくない。

 

 ハリルホジッチ監督は現実をシビアに見る人である。チームに危機が訪れ、若手に物足りなさを感じたら大久保ら実績のある選手を最終予選からでも呼ぶ可能性がある。そのことを、霜田ダイレクターを通じてメッセージを出したようにも感じ取ることができた。そしてこれは若手に対する警鐘でもある。

 

 アギーレジャパンの時にも似たようなことが起きている。前監督のハビエル・アギーレは中盤の若返りを図るため、田口泰士や森岡亮太らをテストしていた。だが、結果が求められるアジアカップを前に、長谷部誠と遠藤保仁をチームに呼び戻している。若手に期待の目を向けつつも、彼は「経験重視」に切り替えていたのだ。

 

 アジア王者としてリオ五輪に挑むU-23世代に対するハリルホジッチ監督の期待は大きい。だがJリーグの「主役交代」が実現しない現実に、彼はもどかしさを感じているに違いない。若い才能たちは、今こそハリルホジッチ監督のハートをガッチリと掴まなければならない。


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