学生時代、嫌いな教科と言えば数学だった人間が、ここのところ、古いデータや数字とにらめっこする毎日を送っている。以前からずっと興味を持っていたジャンルの仕事を、ついに始めることになったからである。

 

 高校時代、一度も公式戦に出場することなく終わったわたしにとって、サッカーはやるものであるのと同じぐらい、見るものであった。レギュラーであればやることに没頭できたのだろうが、何せ出番はまったくない。勢い、専門誌の世界にのめり込み、貪るように情報を取り込んでいった。

 

 最大の興味は、誰が、何を、どう使っているか、だった。

 

 社会人になってドイツへ取材にいった時、若いころ憧れだった選手に「あなたは80年のころP社のWというスパイクを履いてましたよね」と聞いたところ、唖然とされてしまった。

 

「そんな質問をされたのは、生れて初めてだ。というか、わたしだって覚えていなかったのに、なぜ知っている?」

 

 びっくりされたことにびっくりしてしまったわたしは、その時、うまく答えることができなかったが、いまなら言える。

 

 それは、当時の日本人が、写真でしか世界のサッカーを見ることができなかったから、だった。テレビ中継がほとんどなく、月刊の専門誌を食い入るように眺めるしかなかったため、誰が何を着て何を履いているか、いつのまにか記憶してしまったのだ。

 

 時は流れ、サッカーは日本でもポピュラーなスポーツになった。海外の試合を映像で見るのも、当たり前のように可能な時代になった。だが、わたしの中には、不自由な時代同様、サッカーにおける用具=ギアへの興味が消えずに残っていた。

 

 というわけで、ギア専門のメディアを立ち上げることにした。

 

 たとえば、高校選手権に出場した全チームのユニホーム・メーカーを調べてみる。武南が初優勝した60回大会では1位がアシックスで45.8%、2位アディダス33.3%なのだが、3位はなんと無印。当時はユニホームにメーカー名が入るのを嫌う指導者が多かったということなのだろう。

 

 3年後、帝京と島原商の同時優勝に終わった63回大会では、アシックスが20.1%の2位に後退し、代わりに3年前は1校もなかったアドミラルが14.6%と躍進している。ヤスダ、ル・コックといった懐かしいメーカーの名前もある。

 

 ちなみに、今年の高校選手権におけるシェア1位はプーマの22.9%。30年前は5社しかなかったメーカー数は11社に増えた。なお、選手が履いていたスパイク・メーカーの1位は――。

 

 というわけで、冷静に考えれば何の役にも立たない情報やデータを、大のオトナが大まじめに調べ、分析するというのが、間もなく立ち上がる「キングギア」というメディアである。お暇な時は、ぜひ。

 

<この原稿は16年5月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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