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(写真:スタート前の様子)

 5月15日、ホノルルスポーツの風物詩「ホノルルトライアスロン」が開催。ここで、フィニッシュ後にひと際元気な女性がいた。日本では元気印のアイドルとして活躍。その後は活躍の場をニューヨークに移し、現在はハワイ在住の「相原勇」である。彼女は皆の声援を受け、見事に初めてのトライアスロンをフィニッシュした。いつも以上に笑顔の彼女は、いつもより言葉少なくその喜びをかみしめているように見えた。

 

 始まりは俳優の鶴見辰吾だった。番組で、鶴見と共演した相原はトライアスロンを勧められる。走ることに取り組み始めていた相原は、鶴見の勧めが素直に受け入れることができ、それを意識するようになった。後に「ハワイの生活は緩すぎて、何か目標を持って生きたいと思っていた。そんな時にこのスポーツを聞いて、この地にぴったりだと思ったんです」と語っている。そして僕との出会いでその流れはさらに加速していく。

 

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(写真:バイクで走る。短い準備期間でそれなりにまとめた)

 しかし、彼女はスイムもバイクもやったことがなかった。ランにしても昨年5月時では10km走るのが精一杯という状態である。相原は体力も技術も伴っていなかったのだ。そこでまず彼女の最初の目標に設定したのが地元のビッグイベントである「ホノルルマラソン」。半年でマラソンを完走しようという目標に向けてトレーニングを開始した。もともと、やり始めると中途半端にできないのが性分の相原。走り過ぎるがあまりに、体のあちこちが不調を訴え、ケアのためにアイシングをしたら凍傷になってしまうという有り様である。それでも満身創痍で迎えた12月のホノルルマラソンを見事に完走した。このあたりから彼女も自分の体力に少し自信が持てるようになった。

 

 次の課題はスイム。水に親しみのない生活を送ってきた彼女にとって足がつかないところで泳ぐのは恐怖以外の何物でもなかった。プールや海で何度も過呼吸になりながら、トレーニングする日々は続いた。「速さや距離にとらわれず、とにかく泳ぐ機会を増やすこと。水と仲良くなること」。そんなアドバイスにしたがって、毎日のようにプールに通ったという。幸いハワイはプールや海など泳ぐ場所には困らなかった。最後に自転車を始めたが、これには適応性の高い相原は早く順応し、とりあえず形にはなった。

 

 生活を変えたトライアスロン

 

 そんな状態で大会の2週間前となった。スイムはまったく自信が持てない状態で何をしていてもその不安だけが彼女にのしかかる。「寝るときはもちろん、仕事しても、ご飯食べても、お酒飲んでもそのことが頭から離れなかった」という精神状態のまま大会期間を迎えることになった。しかし、相原は前日から不思議と落ち着いてきたという。頑張っているのは、不安に思っているのは自分だけでない。周りの参加者、仲間の存在が心強かったのである。

 

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(写真:スタート直後、カメラに笑顔を見せる余裕も)

 そして大会当日、スタートしてしまうとあっけなくレースは終わった。課題のスイムは何度か苦しくなったが、問題なく泳ぎ切れた。ランも一度も歩くことなくフィニッシュを迎えることができた。彼女は「あれ、もう終わってしまうんだという感じ。その前が長かっただけにあっけなかったですね」と笑顔で語る。こうして相原勇はトライアスリートになったのだ。

 

「このスポーツに出会ったおかげで生活が変わったのが大きかったです。今までのだらだらとした生活から、ひとつ芯が通った感じ。何をしていてもどこかにトライアスロンがいる感じが心地いい」と言う。ハワイ生活で物足りなさを感じていたが、ようやく「目標」を見出せたようだ。

 

 また「トライアスロンは舞台と同じ。沢山のものごとを締め切りまでにやりきらなければならない。だからこそ、プライオリティを見極め、順序立てて整理し、1つずつこなしていく。それに気が付くことで、多くのことをこなしていけるようになりました」と自分の経験が役立ったとも口にする。だからこそ、ほぼ1人で1年間の準備をこなすことができた。それでも最後は練習仲間の存在も大きかった。「練習のノウハウというより、練習の仕方みたいな基本的なところを勉強させてもらったし、一緒にやっているという連帯感も有難かった」。タフに見える彼女もプレッシャーと戦うには、仲間が必要だったのだろう。

 

 レース翌日に会った時には、来年に向かって何をするのか、相原の頭の中ではもう膨らんでいることに驚かされた。フィニッシュ後、しばらくするとまだまだ不甲斐ない自分に物足りなさを感じ、次に向けてのモチベーションが沸いてきたという。コツコツと努力をし、喜びを獲得するという人生を歩んできた彼女には、このスポーツがピタッとハマったようだ。

 

「とりあえずトライアスロン」が「いつもトライアスロン」に。この業界に元気な女性がまた1人加わった。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。著本に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。

>>白戸太朗オフィシャルサイト>>株式会社アスロニア ホームページ
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