来週から今季の交流戦がスタートします。昨年の交流戦はセ・リーグが44勝61敗1分とパ・リーグに大敗を喫しました。12年に巨人が交流戦を制した時、僕は巨人の一軍投手コーチを務めていました。今回は当時の経験をもとに“交流戦を制すカギ”について述べたいと思います。

 

 12年の交流戦が始まる前、当時の原辰徳監督とコーチ陣との話し合いで、打撃よりもピッチャーに重点を置くことを決めました。これまでピッチャーがいくら良い球を投げてもパの強打者に簡単に打たれていたので、打者のデータをもとにピッチングを組み立てていく方針を固めたのです。

 

 そこで力を入れたのが、パ・リーグ6球団の打者のデータ収集です。シーズン開幕から交流戦までの約2カ月間で相手を徹底的に丸裸にするために通常4人程度のスコアラーをこの年は5~6人程度に増やしました。これは僕がコーチになってから初の試みでした。当然、スコアラーを増やせばデータ量も増えます。

 

 データをたくさん集めた結果、パ・リーグの打者は真ん中から外寄りのボールに強いという統計が出ました。良いバッターはアウトコースを打つのが上手ですが、とくにパ・リーグの打者はアウトコースの150キロを超えるボールでも簡単にバットの芯で捉えることが分かりました。

 

 このデータをもとに、初球と2ボール1ストライクのバッティングカウント、つまり大事な局面では“インコース攻め”と約束事を決めました。

 

 12年5月30日、東北楽天戦で杉内俊哉がノーヒット・ノーランを達成したときもインコースを相当攻めていました。あの試合は9回2アウトまで完全試合でしたが、杉内は27人目のバッターにフルカウントからフォアボールを与えてしまいました。あの時に投じたボールがインコースだったことからも分かるように、投手たちには大事な場面でインコースを突くことを徹底させたのです。

 

 12年の経験から、データ量が交流戦を制すための大きなキーになると考えています。その点では、データ量が豊富な阪神と巨人が有利だと思います。しかし、昨年から6連戦を3つに分けた試合日程に変わったので、先発の枚数が足りていない巨人は苦しい展開が予想されます。一方、阪神は能見篤史、藤浪晋太郎、岩貞祐太、ランディ・メッセンジャーと投手力は盤石なので、現時点では阪神の方が有利でしょう。

 

 昨年の交流戦前まで首位だった横浜DeNAが、パ・リーグにボロ負けして貯金10が0になったことから分かるように、セ・リーグにとって交流戦はレギュラーシーズンの流れを大きく変える“関所”です。セ・リーグ6球団の中で交流戦を5割で乗り切ったチームがレギュラーシーズの首位争いに絡むと考えていいでしょう。

 

4<川口和久(かわぐち・かずひさ)>

1959年7月8日、鳥取県鳥取市出身。鳥取城北高を卒業後、デュプロを経て、81年にドラフト1位で広島に入団。入団3年目に15勝マークすると、86年から91年までの6年連続で2ケタ勝利を挙げ、最多奪三振を3度(87年、89年、91年)受賞した。左腕エースとして活躍し、チームを3度のリーグ優勝に導いた。94年オフに球団史上初のFA権を行使して巨人に移籍。95年にプロ野球史上14人目(当時)となる2000奪三振を達成。98年限りで現役を引退すると、野球解説者の道に進む。09年、10年に巨人の春季キャンプで臨時投手コーチを務めた後、11年に投手総合コーチに就任。4年間で3度のリーグ優勝に導いた。現在は野球解説者として活躍する。通算成績は139勝135敗2092奪三振。身長183センチ、体重75キロ。左投両打。


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