一部の選手の愚行とはいえ、賭博問題によりバドミントンのイメージは地に堕ちた。汚名返上のためには、相当な時間が必要だろう。
そんな中、リオデジャネイロ五輪日本代表に決まったひとりの選手に注目が集まっている。21歳の奥原希望だ。
希望と書いて「のぞみ」と読む。バドミントン界の救世主となれるのか。
代表内定記者会見では「(代表選考の)レースのスタートラインに立てることさえ全然想像していなかったですし、こうやってここに立てることが奇跡だなと思っています」と言って声を詰まらせた。
それもそのはず奥原は13年に左ヒザ、14年には右ヒザを負傷。この2年間は不遇をかこっていた。
2度にわたる故障を乗り越えるには、人並みはずれた精神力が必要である。
奥原が所属する日本ユニシス女子バドミントンチームの小宮山元監督は、こう語る。
「ずば抜けたセンスは感じないんですが、努力できる才能は日本一です。あんなにバドミントンをストイックに練習できる子はいないと思います」
日本ユニシスには女子ダブルス世界ランキング1位の高橋礼華&松友美佐紀がいるが、小宮山監督によれば、ことストイックさにかけてはこの2人を上回るという。
復活の狼煙を上げたのが、今年3月の全英オープンだ。準々決勝でロンドン五輪銀メダリストのワン・イーハン(中国)、準決勝で世界選手権連覇中のキャロリーナ・マリン(スペイン)を次々と撃破した。
決勝のワン・シーシャン(中国)戦では奥原の持ち味である粘り強さが如何なく発揮された。
ゲームカウント1-1のファイナルゲーム。一時は14-17と追い込まれたが、根負けしたのはワン・シーシャンの方だった。奥原は長身から打ち下ろされる強烈なスマッシュを何度も拾い、食らいついていった。
長いラリーを耐え抜いての勝利は、大きな自信になったことだろう。
「最後の最後まで流れが悪く諦めかけた試合でしたが、勝負どころで流れを引き寄せて勝ち切った。これからの自分への期待にもなりました」
5月19日現在、奥原の世界ランキングは5位。リオでのメダルが視界に入る位置にいる。
彼女へのマークも当然、厳しくなってくる。
「研究されるのは一握り。そこに自分がいることが嬉しい。ケガをしていた頃はそこに憧れていたので」
4年前、日本はロンドン五輪の女子ダブルスで史上初の銀メダルを獲得した。これは中国、韓国、インドネシアのランキング上位ペアが“無気力試合”で失格になったことによるものであり、手放しでは喜べない。
「初めてのオリンピックですが、自分らしいプレーをして、最高の舞台で頂点に立てるように頑張りたい」
リオでの本命は世界ランク1位のマリンや、リ・シュエリら中国勢だ。高い壁を打ち砕くのは容易ではないが、どん底から這い上がってきた、その“生命力”に期待したい。
<この原稿は『サンデー毎日』2016年5月29日号に掲載されたものを一部再構成したものです>
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