17日の阪神-中日戦(甲子園)で、4年ぶりに藤川球児が守護神として9回のマウンドに立ちました。全球ストレート勝負で挑み、打者3人を完璧に封じて、日本球界復帰後初セーブを記録。全盛期に比べて球質は落ちていましたが、縦横のコースに投げ分けたバッターとの駆け引きは見事なものでした。

 

 4年ぶりに古巣に復帰した藤川は先発として再出発しましたが、4試合投げて1勝2敗、防御率6.12と振るいませんでした。先発で上手くいかなかった一番の原因は、2013年に受けたトミー・ジョン手術の影響でしょう。

 

 僕も現役時代に同じ手術を受けています。僕の経験からすると、術後から1、2年経てば腕の違和感はなくなります。しかし、トミー・ジョンをした後は、故障前の状態を100%とするならば98%にしか戻らないんです。残り2%のズレに慣れることはそう簡単ではありません。

 

 先発は長いイニングを投げるので、通常100%のところを95%の力で投げます。しかし、トミー・ジョンを受けた選手は95%で投げようとしても90%になってしまうんです。藤川の先発試合を見ていて、今までカウントを稼げていた球を痛打される場面が多かった。先発だと当然長いイニングを投げるので、5~6回までもたないんですよ。

 

 今季の藤川の投球を見ていて、全盛期が100点だとすると現状は90点。未だに“怪我に対する怖さ”が残っている印象を受けます。体は怪我をした感覚を忘れないので、“再び怪我をするのではないか”という恐怖心に打ち勝たなければいけません。とはいっても、これはメンタル的な部分なので時間が解決してくれるでしょう。

 

一時的なリリーフが最善策

 今季の阪神は先発陣には藤浪晋太郎、ランディ・メッセンジャー、岩貞祐太、能見篤史など錚々たる顔ぶれが揃っていますが、リリーフ陣が確立できていません。安定感のあるリリーフがいれば先発投手を6回で代えることができますが、現状の阪神には安定したリリーフがいないので投手起用の見極めに時間がかかっています。経験豊富な藤川がリリーフとして戻ってくれば継投策が確立されるので、チーム浮上のきっかけにも繋がるはずです。

 

 シーズン当初から本人は「新たな可能性を見出す」ことを目指して、先発を志願していました。先発で目先を変えようとして、武器であるストレートではなく変化球を多く投げ過ぎてしまった。これが原因で、彼の特長であるストレートの球威がやや落ちています。

 

 先発で上手くいかなかったこともあり、彼は自分の思い通りに投げられないという“モヤモヤ”を感じていると思います。なので、一時的なリリーフ策はチームだけでなく本人にとってもプラスに運ぶことは間違いないでしょう。先発からリリーフに転向することは難しいですが、リリーフから先発に行くことはそんなに難しくはありません。リリーフで良い状態を作ってから、再び先発にチャレンジする形がベストだと思います。

 

 もう一度、自分自身の原点である“ストレート勝負”で挑む気持ちの整理ができれば、必ず球威は取り戻せます。良い意味でリリーバーとして開き直ることが、“藤川復活”のカギとなるでしょう。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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