(写真:スター軍団の対決は全米のスポーツファンから注目を集めている)

(写真:スター軍団の対決は全米のスポーツファンから注目を集めている)

 NBAファイナル第1戦、第3クォーター終盤———。クリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)が逆転した直後、ゴールデンステイト・ウォリアーズの本拠地オラクルアリーナは一時は重苦しい空気に包まれた。

 

 2年連続MVPを獲得したステフィン・カリーのFG(フィールドゴール)が15本中4本(11得点)しか決まらないというエースの不調。カリーと“スプラッシュブラザーズ”を形成するクレイ・トンプソンも9得点に終わり、大事なゲームで自慢の両輪がブレーキになった。そんな背景を知れば、キャブズが敵地で先勝する絶好機だと誰もが考えるに違いない。しかし、結果はウォリアーズが104-89で勝利した。

 

「みんなが活躍してくれたことを誇りに思う。チーム全体が貢献し、インパクトを残さなければ優勝はできないからね」

 試合後、カリーがそう目を細めた通り、第1戦ではウォリアーズのサポーティングキャストたちが素晴らしい働きをみせた。

 

 伏兵ショーン・リビングストンがチーム最多の20得点、去年のファイナルMVPに輝いたアンドレ・イグダーラが12得点、33歳のリアンドロ・バルボウサが11得点とベンチメンバーが活躍した。こうしてベンチの合計得点ではウォリアーズが45-10と圧倒し、第4クォーターでは30-21とキャブズを再び突き放す要因となった。

 

 層の厚さ、総合力の高さを見せつけての逆転勝利———。第1戦を見て、改めてウォリアーズの底力を感じたファンは多かったのではないか。

 

 ミスで落としたキャブズ

 

(写真:キャブズの逆襲がレブロンにかかってくることは間違いない Photo By Gemini Keez)

(写真:キャブズの逆襲がレブロンにかかってくることは間違いない Photo By Gemini Keez)

“レブロン・ジェームスvs.ステフィン・カリー”。アメリカでもそんな形でこのシリーズを楽しみにしていたファンは多いだろう。ポジションは違うとはいえ、ともに現役最高級と目されるスーパースター同士の直接対決。今年のファイナルがNBA の範疇を凌駕した注目を集めている理由はそこにある。

 

 周囲の期待通り、第1戦ではレブロンは23得点、12リバウンド、9アシストのオールラウンドゲームで貫禄を示した。また、ジェームス、カイリー・アービング、ケビン・ラブという“ビッグ3”が66得点を挙げるなど、スーパースター同士の対決に限定すれば、完全にキャブズが上回っていた。

 

 しかし、それでもキャブズは勝てなかった。なぜなら、キャブズにはミスが目立ち、ビッグ3も自ら得点はできても、周囲の選手たちを上手に巻き込むことができなかったからだ。そして、常に鍵を握るディフェンスでもウォリアーズの方が一枚上だったからである。

 

「ウォリアーズのように優れたチームに勝つには、もっとボールを大事に扱わなければいけない。(今日は)得点を自由に与えてしまった」

 試合後、ティロン・ルーHCがそう語った通り、この日のキャブズは17ターンオーバーを犯し、そこから25得点を相手に献上した。

 

(写真:大黒柱カリーが不調でも勝利。第1戦でウォリアーズは深さを誇示した Photo By Gemini Keez)

(写真:大黒柱カリーが不調でも勝利。第1戦でウォリアーズは深さを誇示した Photo By Gemini Keez)

 ウォリアーズの脇役たちの出来が良かったのは確かだが、キャブズに大きなミスが目立ったのも紛れもない事実。今季、レギュラーシーズン73勝という史上最多勝記録を作ったウォリアーズは、単調な攻め、ケアレスミスを繰り返して打ち破れる相手ではない。

 

 第1戦の結果は特に大きく騒がれてしまうものだが、独特の高揚感の下でのホームチームの大勝はあることで、過剰反応すべきではない。1年前のファイナルでもキャブズは敵地での初戦を落としたが、第2、3戦は制している(その後に3連敗を喫して敗北)。シリーズの鍵は第1~2戦、あるいは試合地が変わる第2~3戦の間に両チームがどうアジャストするかである。

 

 歴史的激闘になる可能性

 

 第1戦ではウォリアーズの深みと、キャブズの反省材料が見えた。攻撃力に大きな差はないとしても、チーム全体の守備力、ベンチの深みでウォリアーズが上回っている。総合力ではやはり昨季王者が一枚上なのだろう。

 

 ただ、両チーム間に今シリーズ中に埋まらないほどの違いがあるとは思わない。何より、リーグ最大のディファレンス・メーカーである怪物レブロンを擁している限り、キャブズにも常にチャンスはある。

 

(写真:Historic Yearと記念シャツに刻まれている通り、シーズン73勝の上に、2年連続ファイナル制覇を果たせば、ウォリアーズは歴史に名を刻むことになる)

(写真:Historic Yearと記念シャツに刻まれている通り、シーズン73勝の上に、2年連続ファイナル制覇を果たせば、ウォリアーズは歴史に名を刻むことになる)

「(第1戦でのオフェンスに)満足の部分もあれば、そうではない部分もある。ボールをもっとサイドに動かし、相手ディフェンスを散らさなければいけない。1つの側ばかりから攻めていたら、相手の対応も容易になる。第2戦では攻撃面でより上質なゲームプランを用意しなければならない」

 試合後のそんな言葉を聞いても、レブロンは自身がやらなければいけないことを十分に理解しているように思える。

 

 レブロンとアービングがアイソレーションを仕掛け続けるのではなく、意識してボールムーブメントを重視する。JR・スミス、チェニング・フライといったシューターたちを巧みに巻き込み、ウォリアーズの堅守のほころびを見つけ出す。

 

 簡単な作業ではないが、レブロンがハイレベルのプレーメーカーになれることはすでに証明されている。あとは第1戦ではやや気負いの感じられたアービングが、大舞台で一皮剥ければ……。

 

 第1戦がウォリアーズの完勝で終わったあとでも、2016年のNBAファイナルは歴史的な激闘になる可能性が十分にある。それをなし得るべく、レブロンを始めとするキャブズの選手たちが、第2戦以降にどんなアジャストメントを施してくるかに注目が集まる。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

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