鬼門の交流戦まっさかりだが、カープは貴重な勝ち星を、たて続けに2つ拾った。

 

 まずは6月5日の福岡ソフトバンク戦。1-1で引き分け濃厚かと思われた延長12回裏。丸佳浩が、あのデニス・サファテから見事にサヨナラヒット。対ソフトバンク1敗2分になるところを、1勝1敗1分にしたのだから大きい。

 

 打った丸もエライが、12回裏のポイントは菊池涼介である。先頭・田中広輔がヒットで出て、菊池は送りバント。これをサファテが悪送球して無死一、二塁という絶好の場面を作ることができた。サファテの焦りを誘ったのは、一塁へ駆けていく菊池のスピード感だったに違いない。

 

 次に、6月7日の北海道日本ハム戦。パ・リーグ防御率2位(6月8日現在)の有原航平から2点もぎとり、3-2で逃げ切った。

 

 ポイントは、9回裏である。カープ1点リードでクローザー中崎翔太が登板。1点差で中崎というのは、見ている側は、相当、心臓に負担を強いられる。日本ハムの先頭打者は田中賢介。カウント2-2からの5球目だった。粘られてヒット打たれそうだなあ、という悪い予感にさいなまれていたら、三塁線に強烈なライナー。

 

 ところが、サード安部友裕が守備位置からファウルゾーンへ向かって大ジャンプ! なんと、もぎ取ったのだ。かれこれ50年以上野球を見ているが、こんな奇跡みたいなプレーははじめて見た。

 

 この1つのアウトがとてつもなく大きく、中崎は三者凡退で試合をしめくくることができたのでした。

 

 あとでシーズンを振り返ったら、この2つの1点差勝利は、ペナントレースの行く末を左右する大きなポイントだったということになるかもしれない。

 

 もう1つ。朗報がある。6月4日、カープはクリス・ジョンソンと、来季からの新たな3年契約を結ぶことで合意したと発表された。

 

 確実に10勝以上が計算できる左の先発投手との3年契約は、実にめでたい。

 来季からは、年俸が300万ドル(約3億1950万円)で、出来高を含めれば、3年総額最大で15億円を超える大型契約だそうだ。

 

 これについては、一応は、球団の機敏な判断が評価されるべきなのかもしれない。

 

 ジョンソンはこうコメントしている。

「とても光栄なオファーがあった。(今オフ)メジャーリーグで好条件な契約を得る可能性もあったけど、私たち家族は広島の街を愛している。カープファンのことを考えた結果が、日本に残る大きな決め手になった」(「デイリースポーツonline」6月5日付)

 

 いやあ、正直、来季は巨人とかソフトバンクとかオリックスあたりに行くんじゃないか、とヒヤヒヤしていたのですけどね。

 ただし、コメントを注意深く読んでほしい。

 

 その言葉を額面通りに受けとるならば、彼は「広島の街」と「カープファン」に好意を抱いているのである。もちろん、契約条件にも好感は持ったのだろうけれども、極端に言えば、彼を残留させたのは、カープファンであって、球団ではない。カープとしては珍しい大型契約ができたのも、連日、満員になるほどマツダスタジアムにつめかけ、グッズも購入する多くのファンの存在と、無関係ではないだろう。

 

 交流戦で、必ずやポイントになるにちがいない2勝をもぎとり、おそらくは石井琢朗打撃コーチの功績で、昨年の貧打は、一転して「ビッグレッドマシンガン打線」と言われるまでになった。(これについては「(チームのテーマとして)追い込まれても簡単に三振しないこと」という指示が出ていると、野村謙二郎元監督が5月26日のテレビ解説で証言していた。まさに、現役時代の石井琢朗の姿である)。

 

 優勝の条件は整った。あとは、監督と投手コーチの手腕だけ、である。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


◎バックナンバーはこちらから