5月から6月上旬、バレーボールはオリンピックをかけた戦いに盛り上がった。女子は見事にリオデジャネイロ五輪への切符を獲得。しかし男子は予想以上に苦戦し、五輪出場権を得ることはできなかった。

 

 オリンピック出場がかかっていたことで、大会自体は非常に盛り上がった。背景にはTV局を中心としたメディアの仕掛けがあったことは言うまでもない。そのおかげで大会は注目され、会場には多くの人が詰めかけ、多くのメディアが報道した。確かにそれは大事なことなのだが、果たして選手やチームからすると本当にそれでよかったのか……。傍で見ながらどうも引っかかっていた。

 

 当たり前だが、選手は大勢の人に応援してもらうことで力が発揮できるし、注目されることがエネルギーになる。でもそれは、反対に言うならば大きなプレッシャーになるという意味でもある。つまり僕たちは選手たちに余計なプレッシャーをかけたのではないかと。

 

 海外メディアに比べると、日本のメディアは熱するのも早いが、見切るのも早い。また仕込むときの気合も半端ではない。今回、大会前からTVやその他メディアでの仕掛けやPR、会場周辺の盛り上げなども力の入ったものであった。私の事務所が千駄ヶ谷にあるので、そのPR攻撃を毎日のように見ていた。駅から始まり、会場前は凄いことになっていた。

 

 そのために感じたのかもしれないが、「ちょっとやりすぎじゃないのか?」と。大会が始まると、勝てない試合が続いたのは、単なる実力差だけではないと思うのは僕だけだろうか? もちろん、「そんなプレッシャーに勝てないような奴は、本番でも勝てない」と言われればもっともだ。でもそっとしておいたら勝てたとするならば、「その方がいいんじゃないの」とも思える。

 

 過剰な期待は重荷

 

 そんな事を考えていたら、大会後に昨シーズンのⅤ・プレミアリーグ男子の優勝監督であるアンディッシュ・クリスティアンソンさんが「若手をスターにまつり上げて、潰しているのではないか」という趣旨の発言をした。真剣勝負の場を報道するのはいいけど、ショーアップするのは理解できないと。普段から選手と接しているからこそ、今回の選手たちの動きや表情から図れるものがあったのではないかと推測する。

 

 普段はあまり報道されないスポーツが、オリンピックでメダルを取った瞬間から注目されるのはよくあることだ。それは残した結果に対してなので異論はない。それでも選手や関係者たちのその後の人生に及ぼすのはいい影響ばかりでないことがある。ましてや大会前に大騒ぎをされてしまうと、背負う必要のなかったものまで背負ってしまい結果が出ないとするならば……。それは不幸でしかないだろう。もちろん意図しているものではないが、応援しているはずが、潰していたとするならば皮肉なことだ。

 

 応援は大いに結構だし、力にもなる。でも、必要以上の大騒ぎは時に害になってしまう。このあたりの裁量は簡単ではないし、誰が決められるものでもない。ただ、結果が出る前に大騒ぎをすることの弊害もあるのだということを、我々は知っておかなくてはならないだろう。

 そういう意味では、女子バレーボールチームの力は素晴らしいし、リオでの健闘を祈って目いっぱい応援したい。そして男子は東京に向けて、今回の敗退を糧にして欲しい。

 

 がんばれニッポン!

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。著本に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。

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