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(写真:前陣での勝負を挑んだ水谷<奥>だったが、マ・ロン戦初勝利はならなかった)

 18日、国際卓球連盟(ITTF)ワールドツアースーパーシリーズのラオックスジャパンオープン荻村杯4日目が東京体育館で行われた。男子シングルス準々決勝でITTF世界ランキング6位の水谷隼(becon.LAB)は同1位のマ・ロン(中国)と対戦し、ゲームカウント0-4で敗れた。女子準々決勝では15歳の早田ひな(希望が丘高)がITTF世界ランキング2位のディン・ニン(中国)にストレート負け。これで今大会の日本勢は全滅となった。

 

 日本のエースが感じたトップとの差 ~男子シングルス~

 

 龍の尻尾を掴めるのか。日本のエース・水谷が、世界最強のマ・ロンに挑んだ。

 

 水谷はワールドツアー4大会連続出場というタフな日程で臨んでいる。そのうちのチャレンジシリーズ2大会(スロベニアオープン、オーストラリアオープン)で連続優勝中。ワールドツアーで最上位ランクとなるスーパーシリーズの荻村杯で、リオデジャネイロ五輪への弾みをつけたいところだ。水谷は前日に行われた1回戦を4-0、2回戦を4-2で準々決勝に進出した。

 

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(写真:約2年ぶりの対戦となった両者。マ・ロン<奥>は「毎回レベルアップしている」と水谷を評する)

 しかし、対戦相手のマ・ロンは昨年の世界選手権で男子シングルスを制しており、今シーズンもスーパーシリーズで2度の優勝、1度の準優勝を果たしている。出場した3大会すべてで決勝に進出している卓球王国が誇るエースだ。試合前までの対戦成績は水谷の11戦全敗。フォアの強打を武器にする世界王者の壁は厚い。

 

「“どうしよう、どうしよう”という中であっという間に終わってしまった」。第1ゲームはマ・ロンに序盤からリードされる苦しい展開だった。4-10とゲームポイントを許してから、3連続得点を奪って詰め寄る。しかし最後は水谷の返球がネットに弾かれ、7-11で最初のゲームを落とした。

 

 続く第2ゲームは水谷が先制すると、競った展開から8-5と抜け出す。このまま逃げ切って、ゲームカウントをタイに持ち込みたかった。「相手がどうこうというより自分がまだまだ未熟」とミスが続いた。マ・ロンに付け入るスキを与えてしまい、6連続ポイントを奪われた。8-11と逆転を許し、このゲームもとられてしまう。

 

 第3、4ゲームも競り合ったが、ここぞの場面ではマ・ロンの強烈なフォアが炸裂した。表情をほとんど変えずにプレーするマ・ロン。食らい付く水谷の心を折るような非情な強打が台上に叩き込まれる。水谷がリードすることはあっても、流れを手中に収めることは最後までできなかった。9-11、8-11と続けて落として万事休した。

 

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(写真:相手の巧さにも翻弄され、「自分はプレッシャーを感じてしまった」という水谷<奥>)

 男子日本代表の倉嶋洋介監督は「ワールドツアーに4大会連続出場で練習量のない中、試合の感覚はすごくいい。プレー内容も非常に良かった」と評価しつつも、「どこかで取っていれば、(流れは)変わっていた。チャンスはあったが、あと1、2本で工夫が足りなかった」と結果を惜しんだ。水谷本人も「先手を取れていて、展開は自分が押していた。でもチャンスが来た時に迷いがありました。何本もフォアでストレートを打ち抜かれる場面があって、それがどうしても頭を過ってしまった。バックにくるとわかっているのに回り込んで、攻めきれない。決断がうまくできなかった」と敗因を挙げた。

 

 前陣、中陣、後陣どこでもできるオールラウンダーの水谷だが、強打の中国勢に対抗するため前陣でのプレーに取り組んでいる。「積極的に攻めていかないと中国選手には勝てない。かなり前でカウンターを狙った。1本は入るんですけど、返球されたときに2本、3本と続けられる技術がまだなかった」。まだ進化の途中。中国勢と互角に渡り合えるほどの域には達していない。

 

 これでマ・ロンを相手に12連敗。リオ五輪を前に一矢を報いることはできなかった。それでも水谷の感触では、その差は縮まっているという。

「今までは相手のミスだったり、サービスかサービスからの3球目で点を取っていたことが多かった。今日はレシーブからの4球目やラリーでの打ち合いなど、今までにはない点数の取り方がたくさんできました。1試合10本ぐらい後陣で凌ぐ場面が多かったが、今日は1、2本くらいだった。すごく手応えを感じました」

 

 龍の尻尾は掴めなくとも、背中ぐらいは見えたのか。対マ・ロン5度目のストレート負けにも水谷の表情は暗くなかった。

 

 早田、憧れのディン・ニンに完敗 ~女子シングルス~

 

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(写真:攻めの姿勢で世界女王に挑んでいった早田)

 リオ五輪代表組が全滅した女子。伊藤美誠(スターツSC)と平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)と同学年の早田が日本勢唯一の勝ち残りだった。ITTF世界ランキング37位の早田が準々決勝で対するのはロンドン五輪女子シングルスの銀メダリストで、昨年の世界選手権を制したディン・ニンだ。早田が憧れの選手である。

 

「試合になったら憧れを捨てて“倒してやるぞ”という気持ちだった」と早田。立ち上がりは5連続ポイントを取られ、追いかける展開となった。早田がバックハンドで返した球がエッジ(台の角)に当たり、ディン・ニンの返球はネットを越えられなかった。初得点を奪うと、ここから3連続得点で1点差まで迫った。しかし、5-6からディン・ニンの強打に押され、5連続得点を奪われて5-11で第1ゲームは取られた。

 

 早田は第2ゲーム、勝負できていたバックハンドで活路を見出す。4-7と引き離されてからも粘った。6-9から4連続ポイントで、先にゲームポイントを手にする。ここで流れを引き渡さないのが世界のトップか。ディン・ニンにすぐさま1点を返されるとデュースに持ち込まれた。「競った時は相手の方が上」。そのまま10-12で競り負けた。

 

 第3ゲームは4-11、第4ゲームは6-11。終わってみれば、早田のストレートの完敗だが、爪痕は残した。フォアでは力負けして押されていたものの、「バック対バックでは五分五分。点も取れていたので負けていない」と手応えも掴んだ。世界ランキング2位の強者相手にも「ゲームを取れるチャンスがあった」と悔しがった。

 

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(写真:ストレート負けの完敗も「いい経験になった」と前向きだ)

「一番の憧れ」と尊敬するディン・ニンとは3月のクウェートオープンで練習パートナーも務めた。韓国選手と対戦するため、ディン・ニン側から指名された。「うれしかった。やってみると緊張して固くなった」と早田。その際にディン・ニンからは、早田と同年齢(15歳)の時に行っていたトレーニングなどを聞いたという。

 

 3カ月後、2人のレフティーは公式戦で対戦した。ディン・ニンが得意とするしゃがみ込みサーブも使ってきた。練習で受けた時とはボールの回転も違う。垣間見えた相手の“本気”。「“ついに出してきたか”と思いました。一発で取りたかったですがネットに引っ掛けてしまいました」と唇を噛んだ。試合後に東京五輪で再戦した場合のことを問われると、「その時は絶対に倒します」と勝気な部分も覗かせた。

 

 東京五輪での金メダル獲得を目指す15歳のホープ。早田は今大会予選から勝ち上がり、本選でも1、2回戦で格上を撃破した。伊藤、平野という同世代のライバルたちから刺激を受けている。「2人がいるからベスト8でも満足できない」。卓球界にまた1人、将来が楽しみなヒロイン候補が現れた。

 

(文・写真/杉浦泰介)