6月27日現在、9連勝中の広島カープは貯金14で首位にいます。2位・巨人に8ゲーム差をつけて独走状態に入っています。カープはセ・リーグの“鬼門”となる交流戦を11勝5敗1分けで乗り切りました。連勝中はコリジョンルール適用でサヨナラ勝ちしたり、鈴木誠也が3試合連続決勝ホームランを放つなどカープに追い風が吹いています。25年ぶりの優勝が現実味を帯びてきました。

 

 今季のセは連勝連敗するチームが多いことでもわかるように、どんぐりの背比べのように6球団の力の差はほとんどありません。その中から抜け出してカープが首位にいるのは、他の5球団よりも投打のバランスが上手く噛み合っているからだと思います。

 

 カープの先発投手は、リーグトップの8勝を挙げている野村祐輔と昨季最優秀防御率のクリス・ジョンソンが柱になっています。2人合わせてここまで15勝を挙げています。チーム最年長の黒田博樹らもローテーションを守り、層が厚いです。

 

 課題だった中継ぎ陣は、ブレイディン・ヘーゲンズとジェイ・ジャクソンの新外国人ピッチャーが頑張っています。これまで1点差ゲームに弱いと言われていたカープが、6月は1点差ゲームを6勝2敗と勝ち越しています。中継ぎ陣が計算できるようになったことで、苦手だった接戦をモノにできるようになりました。

 

 攻撃陣は1番・田中広輔、2番・菊池涼介、3番・丸佳浩の出塁率が良く、ケガから復帰したエクトル・ルナが4番で結果を出しています。加えて、鈴木が急成長したことで打線に厚みが出てきました。オリックス戦で放った3試合連続決勝ホームランを見て、鈴木には“大物感”を感じました。いずれは東京ヤクルトの山田哲人のようにトリプルスリー(打率3割以上、30本塁打以上、30盗塁以上)達成をする素質があります。彼は間違いなくカープの将来の4番候補でしょうね。

 

球宴までの1カ月間が重要

 先週からレギュラーシーズンが再開しましたが、プロ野球の1シーズンは大きく4つのステージに分かれています。交流戦までの戦い、交流戦の戦い、交流戦からオールスターゲームまでの戦い、そしてオールスターゲーム後の戦いです。

 

 4つのステージの中で、優勝に近づくにはオールスター後の戦いが、最も大事です。特に8、9月を勝ち越さなければ、優勝の美酒は味わえません。過去の3年間のカープの8、9月の勝率を見てみると、4位だった12年は3割7分5厘でした。しかし14年(3位)は5割2分9厘、15年(4位)は5割3分1厘と、年々強くなってきていることが分かります。

 

 14年、カープは巨人と優勝争いを演じていました。しかし、9月の最初のカードで巨人に3連敗を喫したことで、カープは脱落していきました。カープは勝負所で“金縛り”にあったように固くなる性質があります。チームに優勝経験者がいないことが原因でしょう。ところが、今季はどのステージでも“カープの戦い方”ができています。負け続けた経験を選手たちは肥やしにしていると思います。

 

 勝負所の8、9月を勝ち越すために一番大事なことは、現状の戦力を維持することです。今までスタメンだった選手が故障で離脱してしまうと戦力低下は免れません。僕が巨人の投手コーチを務めていた時は、8、9月に故障者を出さないために、選手たちにはある程度の“余裕”を持たせました。例えば、12年に杉内俊哉がノーヒット・ノーラン達成したあとに膝を痛めて2軍行きが決まった時は「明日から2日間くらい練習しなくていい。家族連れてディズニーランドでも行ってこい」と言いました。本人は「本当にいいんですか?」と驚いていましたが、たまにはリフレッシュすることも大切です。選手たちを心身共に休めることで英気を養わせ、シーズン終盤に備えたものです。

 

 冒頭でも述べたように、今年は6球団の戦力に差がないので、勝率5割をキープしているチームが8、9月に勝負をかけると予想しています。オールスターまでの約1カ月間で、優勝争いをするチームが絞られていくでしょう。25年ぶりの優勝を目指すカープはオールスターゲームまでの13試合をしっかりと戦い抜くことが大切です。優勝を意識するのはまだ先になるでしょう。

 

4<川口和久(かわぐち・かずひさ)>

1959年7月8日、鳥取県鳥取市出身。鳥取城北高を卒業後、デュプロを経て、81年にドラフト1位で広島に入団。入団3年目に15勝マークすると、86年から91年までの6年連続で2ケタ勝利を挙げ、最多奪三振を3度(87年、89年、91年)受賞した。左腕エースとして活躍し、チームを3度のリーグ優勝に導いた。94年オフに球団史上初のFA権を行使して巨人に移籍。95年にプロ野球史上14人目(当時)となる2000奪三振を達成。98年限りで現役を引退すると、野球解説者の道に進む。09年、10年に巨人の春季キャンプで臨時投手コーチを務めた後、11年に投手総合コーチに就任。4年間で3度のリーグ優勝に導いた。現在は野球解説者として活躍する。通算成績は139勝135敗2092奪三振。身長183センチ、体重75キロ。左投両打。


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