6月26日が「世界格闘技の日」として制定されたのは、ちょうど40年前のこの日、去る6月3日に他界したボクシングヘビー級王者モハメド・アリとプロレスラーのアントニオ猪木が「格闘技世界一決定戦」と銘打って東京・日本武道館で戦ったことに由来する。

 

 

 試合の結果は15ラウンド引き分けだったが、見せ場が少なかったため、評価は「世紀の凡戦」と散々だった。

 

 猪木はリングに寝たままの状態でキックを繰り出し、アリはその猪木を挑発するようにダンスを踊り続けた。

 

 なぜ噛み合わなかったのか。それはアリ側の要望により、ルールがきわめて厳しく設定されたためである。猪木に訊ねると、「とにかく、あれもやっちゃいけない、これもやっちゃいけない、ということで、こっちとしてはああする(アリ・キック)より他に方法がなかった」という答えが返ってきた。キックも立った状態では禁止されていたという。

 

 猪木は続けた。

「あのパンチだけは、とにかくどんなことがあっても食らっちゃいけないと思った。かすっただけでコブができましたからね。あんなのを目線から下の部分にくらったら、一発でいっちゃいますよ」

 

 アリがソニー・リストンを返り討ちにした試合がある。かすったように見える右フック一発で、リストンはダウンを喫したのだ。猪木が寝たままの体勢を保ったのは、ある意味、賢明だったと言えよう。

 

 一方のアリも、いくらボクシングの現役ヘビー級王者といっても、捕まってしまえばただの人である。しかも3カ月後にはケン・ノートン相手の防衛戦が決まっていた。腕を折られでもしたら一大事である。

 

 このように制約の多い試合だったからこそ、異種格闘技ならではの独特の緊迫感が生まれ、後世に語り継がれる真剣勝負となったのではないか。

 

 試合後、ともに「怖かった」と口を揃えている。これは本音だろう。

 

<この原稿は『週刊大衆』2016年7月4日号に掲載されたものです>

 


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