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(写真:三度緑のベルトを腰に巻くことはできるか)

 もうすぐリオデジャネイロ五輪が始まるが、開催期間は、わずかに17日。アッという間に宴は終わる。その後に私は胸を熱くしてリング上を見守ることになる。

 

 9月16日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)でのダブル世界戦--。

 メインカードは、WBC世界バンタム級タイトルマッチ、王者・山中慎介(帝拳)とアンセルモ・モレノ(パナマ)の再戦だ。そして、この試合の前に“レジェンド”35歳の長谷川穂積(真正)が、ラストチャレンジに挑むことになる。3階級制覇を懸けて、WBC世界スーパーバンタム級王者ウーゴ・ルイス(メキシコ)に挑むのだ。

 

 2000年代後半、長谷川は日本のリングの主役であり続けた。WBC世界バンタム級王座に5年もの長き間在位し、その間に強者を相手に10度の防衛を果たしたのだ。10年4月の事実上の王座統一戦では、WBO世界同級王者フェルナンド・モンティエル(メキシコ)に4ラウンドKOで敗れベルトを失うも、その7カ月後には、ファン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)に勝利し、WBC世界フェザー級のベルトを獲得。2階級制覇を果たしている。

 

 長谷川は、卓越したテクニックを有した勇気あるボクサーだ。相手のパンチを瞬時で見切るディフェンスセンスに加えて、カウンターパンチを繰り出すタイミングも絶妙だった。被弾を恐れずに踏み込んでいく姿は、見ていてしびれた。年間最高試合をつくり出すこと3度、年度別MVP(最優秀選手賞)に4度選出されているのは当然だろう。

 

 だが2010年代半ばを過ぎた現在、彼の肉体は衰え、動きにも全盛期のような冴えはない。

 昨年12月11日、神戸市体育館でのカルロス・ルイス(メキシコ=WBO世界スーパーフェザー級5位)とのノンタイトル戦。判定で勝ちはしたが、3ラウンドと5ラウンドにダウンを喫した。明らかに相手のパンチへの反応が遅れていた。パンチが見えてはいても瞬時にカラダが動かなくなっているのだ。

 

 死に場所ではなく生きる場所

 

「良かったですよ。穂積さんに最後の最高の舞台が用意されて。あれだけのボクサーですから、燃え尽きる場所は、最高の舞台じゃないといけない」

 ある関係者は私に、そう言った。

 

 7月6日の記者会見で長谷川は、こう話している。

「前回(14年4月、IBF世界スーパーバンタム級王者キコ・マルチネス<スペイン>に挑み7ラウンドTKO負け)は、世界戦をすることが目標でしたけど今回は違います。世界チャンピオンにならないと自分の中では終わらないと思っています。

 死に場所が見つかって良かったと言う人もいますが、そんな風には考えていません。生きる場所が見つかったんです」

 

 そんな彼は、6月末から山中とともに沖縄で合宿を行った。走り込みも精力的に行い、常に山中より前でカラダをイジメ抜いたという。調整は順調に進んでいるようだ。

 

 とはいえ、王者ルイスとの闘いを予想すれば、「不利」と言わねばならない。

 

 ルイスはこれまでに一度来日し、世界タイトルマッチを行っている。

 12年12月、当時、WBA世界バンタム級暫定王者だった彼は、正規王者の亀田興毅と大阪でグローブを交えたのだ。結果は1-2のスプリット・デシジョンでの敗北。どちらが勝者になってもいいような試合で、ルイスに対しても、それほど強烈な印象は持てなかった。

 

 しかし、その後、ルイスは変貌を遂げている。スーパーバンタム級に転向以降、スタイルがアグレッシブになりパンチ力も増した観がある。

 今年2月、米国アナハイムでフリオ・セハ(メキシコ)と再戦、わずか1ラウンド51秒でTKO勝利しWBA世界スーパーバンタム級王者に就くが、このときの右フックの威力は凄まじかった。実力、そして勢いにおいて絶頂時にある王者ルイスは、峠を越えた長谷川を上回っているのだ。

 

 それでも、リング上では何が起こっても不思議ではない。ただ、この一戦に限っては12ラウンドをフルに闘い抜いての判定決着はないだろう。ルイスも穂積も前半からKOを狙って勝負に出る。ディフェンス力は低下している長谷川だが、当たれば倒せるパンチは健在。相手にペースを握られる前に乱打戦に持ち込み、先に一撃を食らわせることができたなら勝機を見い出せるかもしれない。

 長谷川穂積・最終章--。

 奇跡は起こるか!? しかと見届けたい。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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