僕は「自然体」という言葉が好きだ。最近、特にこの言葉を意識している。

「自然体」の意味を調べてみると「身構えたり、先入観をもったりしない、あるがままの態度」とあった。平たく言えば、そのままの自分ということなのだが、僕にはこの部分が弱点だと気付いてしまった。

 

 偽りの自分とまでは言わないが、ずいぶんと背伸びをし、不自然に自分を演じて生きてきたのではと感じる。これまでどこか無理をしていた。その代償ががんを発症させたのでは、と考えると悔やまれるところもある。

 

「肩の力をグッと抜いて、自然に身を委ねた姿で歩んでいきたい」

 しかし、この「自然体」に振る舞うことこそが一番難しいと感じる。力まず、そのままの自分をキープすることは考えている以上に至難の業だろう。

 

 格闘技だって、力を入れるのは簡単だが、抜くのが難しい。意識した瞬間、どうしても力が入ってしまうからだ。

 社会とつながって生きていく中で、「自然体」を貫くのは簡単なことではないが、その方向に少しでも自分を持っていきたい。

 

160722kakihara「お手本を見つけよう……」

「ザ・自然体」を一番体現している人物を探してみると、真っ先に桜庭和志(写真左)選手の顔が浮かんできた。

 

 誰に気兼ねすることなく、常に自分の好きなレスリングに没頭している。総合格闘技のリングにとどまらず新日本プロレスのマットにも上がるなど、そのスタイルにも垣根がなく、自由な感じがみてとれる。

 

「世界のサクラバ」となった現在でもUインターの頃と変わりなく漂々と歳を重ねている印象がある。彼こそ、まさしく「自然体」を地でいっている男だろう。

 

 つい先日のことだが、表参道を短パン姿で歩いているのを発見したが、こんなところも「自然体だなぁ」と微笑ましく思う。強くなるという信念だけは徹底的に貫き、それ以外は周りの目など気にすることなく、立ち振る舞っているところが何とも魅力的だ。心から尊敬する後輩のひとりである。

 

「療養中に送ってもらったトレーニングウエアを着て、最近筋トレも始めたよ」

 僕は久しぶりに会った桜庭選手に近況を報告した。

 

 そのウエアは、彼が一昨年にロスでのグラップリングの大会(ヘンゾ・グレイシーと対戦)で着ていたのと同じタイプで、背中には「SAKU」の文字が入っている桜庭オリジナル商品なのである。

 

「伸縮性が高い上に厚手だから、すぐに身体が温まって重宝しているよ」

 今の僕はあまりハードなトレーニングができないため、軽い運動でも汗がかけるこのようなウエアがあると本当に助かるのだ。ちなみにこのウエアはスパーリング用なのだが、僕は筋トレ時のみに使用している。

 

「(逆に僕は)ウエイトレーニングを全くやってないです」と桜庭選手。

 そういえば、Uインター時代から、彼は筋トレが得意な方ではなかった。しかし、新日本プロレスに上がっていることを思えば、普通なら無理をしてでもやってしまうものだ。

 

「あっ! そうか。それも全然ありかもね」

 僕は、これぞ「自然体」だと思わず膝を打った。

 

 周りのやり方に合わせようとしないで、自分のカラダの声に耳を傾け、それに従っている。これこそが「ありのままの自分」なのではないだろうか?

 世間の常識や当たり前に気をとられず、自分のカラダから発する信号だけを頼りにやっていく彼こそ「自然体」の達人だと思った。

 

 そんな桜庭選手もこの7月で47歳を迎え、歴戦の傷で満足に練習ができないカラダであってもおかしくない。関節に負担のかかるウエイトレーニングをやらないのはそのためかもしれない。彼はこれまで総合のリングで、目を覆いたくなるような凄惨な試合を何度も経験しているだけに日常生活に支障が出ていても不思議はない。

 

「いえ、練習は○○大学のレスリング部で、しっかりやらせてもらっています」

 僕の思考が一瞬止まった。

 

 ウエイトレーニングをやらないぐらいだから、それ以上にキツいスパーリングなどはできないものと思っていたからだ。

「ここまで実績のある人間が、その年齢で大学へ行って練習するなんてマジ凄いよ」

 まさか今もスパーリングをメインに練習をこなしているなんて驚きであった。

 

 だが、彼にとってはマシンやバーベルより対人練習が一番自然なことだったのだ。

「若い学生たちとガンガンやっているわけではありませんよ」

 本人は謙遜するが、強豪のレスリング部という空間にいて、軽い練習で終わるわけはない。

 

 もはや仙人の域に達しつつある桜庭選手の真似はできないが、自分にとってのベストな「自然体」を見つけていこうと思う。

 

(このコーナーは第4金曜日に更新します)


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