リオデジャネイロ五輪に出場するサッカー男子のU-23代表にとって、力強い味方が加わることになった。日本代表専属シェフを務める西芳照氏である。

 事前合宿地のアラカジュで選手、スタッフの食事を担当することになる。大会が始まってからは規定によって調理できないものの、レシピの提供など可能な範囲でチームを支えるという。

 

 西は2004年3月、アウェーで行われたW杯ドイツ大会アジア地区1次予選のシンガポール戦から10年以上にわたって海外遠征で日本代表専属シェフを務めてきた。

 滞在するホテルに任せてしまうと、どうしても食事がワンパターンになりがちで日本とは違う味つけの料理が並んでしまう。西が帯同してからは衛生、栄養はもちろんのこと、おいしく温かく、バリエーションに富んだ食事が提供されるようになった。

 

 注目を集めたのが2010年の南アフリカW杯である。選手の目の前でステーキを焼くなどライブクッキングで、味ばかりでなく目でも楽しませた。ウナギの蒲焼き、お好み焼き、ラーメン……日替わりのごちそうが選手の士気を高めていき、岡田武史監督は大会後に「シェフ1人スタッフが違っていても勝てなかった」と感謝の言葉を述べている。そんな西は既に手倉森ジャパンでも欠かせない存在になっている。

 

 今年1月にカタール・ドーハで行なわれたリオ五輪最終予選を兼ねたU-23アジア選手権。基本的に専属シェフの帯同はA代表のみだが、手倉森誠監督たっての願いにより、西シェフがスタッフに加わったのだった。

 

 その効果は即座に表れた。チームのドーハ入りから5日後に西が到着すると、馴染みのない中東料理に選手たちの食事の量が落ち始めていた。まずはホッカホカのご飯を用意して和食の親子煮で選手たちの胃袋をつかむと、食事の量も一気に回復する。日替わりのメニューは、選手のモチベーションを高めた。試合前はハンバーグが恒例となり、チームは五輪出場権を獲得するとともに優勝を遂げる。

 

 帰国後、西はこう語っている。

「ハンバーグは牛ヒレ100%。玉ねぎ、パン粉、牛乳でつくります。ソースも玉ねぎを炒めたもの。テーブルから『おいしい~』と聞こえてきたときは、うれしかったですね」

 肉をミンチにする機械が壊れてしまうハプニングがあったものの、西は愛情を持って肉を丁寧にこね続けた。愛情を込めた手作りのハンバーグを試合前日に食べることが、チームのゲン担ぎとなった。

 

 今回、西がブラジルの地を経験しているということも大きい。2013年はコンフェデレーションズカップで、そして翌年はW杯で日本代表を支えている。

「ブラジルには、基本的に魚を持ち込むことができません。コンフェデのときは現地で手配したのですが、試合前日に食べる蒲焼き用のウナギや疲労回復に必要な栄養素を含んでいる青魚が手に入らず、困りました。ウナギの代用で穴子を使いましたけど、ウナギを楽しみにしていた選手のみなさんには申しわけなかった。ブラジルは川魚が中心で、調達が難しい。なので、W杯ではかなり早めに動いて準備して、サンマやウナギを食べていただくことができたんです。

 意外に人気だったのはポンデケージョ。ブラジルで一般的なチーズ入りのパンですね。冷めると硬くなってしまうのでベーキングパウダーを入れてみたら、冷めても十分おいしく食べられるようになって……選手のみなさんも食事を済ませて部屋に戻る際、おやつ代わりとして持っていっていましたね」

 

 選手が食べたいもの、栄養のあるものを提供しつつ、ポンデケージョのように現地の料理も西流で楽しませることができる。

 調理にかかわれるのは事前合宿地のみとはいえ、西が後方支援に回るのは実に心強いと言える。

 

 メダル獲りのパワーに。

 勝利のハンバーグ、再び――。


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