あれから、ちょうど20年が経つ。これは長い取材者生活の中でも、5指に入るアップセットである。

 

 

 アトランタ五輪ながら舞台はマイアミ。サッカー日本U‐23代表対ブラジル同代表。奇蹟を演出したのは夕闇に生じた一瞬の死角だった。

 

 ウイングバック路木龍次が左サイドでボールをキープし、相手DFの背後にクロスを送り込む。ワントップの城彰二が、そのボールを執拗に追いかける。

 

 と、その時である。城よりも一瞬、速くボールに追いついたブラジルのセンターバック、アウダイールがヘディングによるバックパスをしようとして、飛び出してきたGKジーダと衝突してしまったのだ。

 

 ボールは坂道を転がるように芝の上を滑り、そのままブラジルゴールへ。オウンゴールかと思われた瞬間、ペナルティーエリア内に詰めていたボランチの伊東輝悦がスルスルとボールに迫り、右足インサイドで慎重に蹴り込んだ。後半27分の出来事である。

 

 GK川口能活の神がかった活躍もあり、日本は虎の子の1点を守り切った。世に言う“マイアミの奇蹟”である。

 

 だが奇蹟の裏には緻密なスカウティングがあった。今では広く知られていることだ。

 

 過日、久しぶりに会った際、城は、こう語っていた。

「実は、あのかたちは狙い通りでした。ブラジルは、ほとんど欠点のないチームでしたが、ただひとつGKのジーダとDFアウダイールの連携がよくないという情報を分析班の人から聞かされていた。チャンスがあれば、そこを突こうとミーティングで確認していました。もっとも実際に点が入り、驚いたのは僕たち自身です。“すげぇ! こんなことが起こるのか”って……」

 

 1968年メキシコ大会以来の五輪メダルを目指す手倉森ジャパン。グループリーグでの相手はナイジェリア、コロンビア、スウェーデンと強豪揃い。水面下での情報分析力が上位進出のカギを握っている。日本版007の“隠密行動”に期待したい。

 

<この原稿は『週刊大衆』2016年8月1日号に掲載されたものです>

 


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