サムスンと聞いて最初は韓国の大財閥・三星グループのことかと思った。オリンピックの公式スポンサーを務める他、プロ野球の三星ライオンズ、サッカーKリーグの水原三星ブルーウィングスを所有しているため、スポーツには理解のある企業として知られている。

 

 そのサムスンがついにデフリンピックまでスポンサードするのか。グローバル企業だけあって、さすがに目の付け所が違うなァ…。これはとんだ早合点だった。

 

 サムスンはサムスンでもトルコのサムスン。黒海に臨むトルコ北部の都市だ。人口約60万人。首都アンカラからは約450キロの距離にある。

 

 来年7月に行われる第23回デフリンピックの開催地はアンカラの予定だった。今もサイト情報などでは開催地がアンカラと表示されている。

 

 ところが、昨年、何の前触れもなくサムスンに変更されたというのだ。いくらオリンピックやパラリンピックに比べると規模の小さいデフリンピックとはいえ、そんなことが許されるのか。

 

 この話を先頃、2大会連続でデフリンピックの陸上競技に出場した高田裕士から聞いた。「本当に開催されるのか不安な部分もあります。治安もかなり悪化しているようですから…」

 

 先週のコラムでトルコの治安の悪化や政情不安について書いた。イスタンブールはオリンピック招致に5回挑戦しながら、いずれも実を結ばなかった。ここへきてのISによるテロに加え、失敗に終わった軍事クーデター。<イスラム圏に五輪がやってくる日は、残念ながら遠いと言わざるを得ない>と結んだ。

 

 そんな折だからこそ、来年トルコで開催されるデフリンピックのことが気になっていた。デフリンピックはろう者のオリンピックとして、これまで夏冬合わせて39回開催されているが、イスラム圏では今回が初めてとなる。参考までに言えば、日本はデフリンピックをまだ一度も開いていない。

 

「治安が安定しなければ家族を呼ぶのも不安です」。高田によると2013年大会でも直前になって開催都市がギリシャのアテネからブルガリアのソフィアに変更されたというが、きちんとした説明もないまま、こうもころころ開催地が変更されては競技者も不安だろう。首をかしげざるを得ない国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)のガバナンスである。

 

<この原稿は16年7月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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