「今日は新井さん。いや、新井さまになるのかな。失投とはいえ、それを逃さずに打つのは凄いの一言」

 

 

 

 四半世紀ぶりのリーグ優勝を目指す広島が中日との後半戦初戦をサヨナラ勝ちで飾った。新井貴浩が一振りで決めた。9回裏、祖父江大輔の甘いストレートをライトスタンドに叩き込んでみせたのだ。

 

 冒頭のコメントの主は緒方孝市監督。新井に脱帽どころか最敬礼だ。

 

 新井の勝負強さは「神ってる」後輩の鈴木誠也に勝るとも劣らない。セ・リーグの打撃成績は東京ヤクルト・山田哲人の独壇場だ。打率、打点、盗塁数、得点数、出塁率でトップに立つ。

 

 そんな中、新井の得点圏打率3割9分6厘は山田を8分以上も上回る(8月1日現在)。

 目立つのはセンターから右方向への打球の増加だ。これまでの新井には“引っ張り専門”のイメージがあったが、それが消え、ケースバッティングに徹するようになった。

 

「それだけ勝ちたいという意識が強いのでしょう。以前は外の変化球でも強引に引っ張るようなところがあった。そうなればこちらとしてはしめたもの。ところが最近は“軽打”して、次のバッターにつなごうとする。齢をとってから(39歳)、これだけモデルチェンジに成功したバッターは珍しい」(在京球団スコアラー)

 

 プロ18年生の新井だが、広島でも阪神でも、まだ一度もリーグ優勝を経験していない。それだけに「今年こそは」との思いは誰よりも強いのだろう。

 

 2000本安打達成のインタビューでは「次? 黒田さんの200勝と……。あとは優勝したいね」と語っていた。

 

 神様、仏様、新井様――。優勝の暁には、山本浩二に次ぐ「2代目ミスター赤ヘル」の称号を与えてもいいのではないか。そう思わせるほどの活躍ぶりである。優勝への視界は良好だ。

 

 

<この原稿は『週刊大衆』2016年8月8日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>


◎バックナンバーはこちらから