8日(日本時間9日)、柔道男子73キロ級決勝が行われ、大野将平(旭化成)がルスタム・オルジョフ(アゼルバイジャン)に一本勝ちで初優勝した。日本男子柔道にとって2大会ぶりの金メダル獲得となった。女子57キロ級はロンドン五輪金メダリストの松本薫(ベネシード)が準決勝で敗れたものの、3位決定戦で勝利して2大会連続のメダルを獲得した。優勝はラファエラ・シルバ(ブラジル)。準決勝で松本から一本を取ったスミヤ・ドルジスレン(モンゴル)に優勢勝ちを収め、金メダルを手にした。

 

 強く美しい柔道を体現

 

 金メダル候補が期待に応えた。“金メダルに一番近い男”と称された大野が、初の五輪で頂点に立った。

 

 24歳の若武者は2013年の世界選手権はオール一本勝ち。昨年の世界選手権も制するなど、国際大会で無類の強さを発揮していた。国内の選考レースではロンドン五輪銀メダリストの中矢力(ALSOK)を破って、リオ行きの切符を掴んだ。

 

 初戦の2回戦は横四方固めで、3回戦は内股で一本勝ち。準々決勝ではロンドン五輪66キロ級の金メダリストと対峙した。ラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)を相手に開始38秒、押し車で技ありを奪った。その後も攻め続け、優勢勝ちを収める。準決勝では積極的に技を打って出た。巴投げで技あり、背負い投げで有効を奪う。最後は再び巴投げで一本。今大会日本勢初の決勝進出を決めた。

 

 迎えた決勝で世界ランキング2位のオルジョフと金メダルをかけて戦った。切れ味鋭い足技を持つ大野は、自らの持ち味を如何なく発揮した。1分37秒、内股で技ありを奪った。オルジョフの反撃をかわしつつ、攻め手を窺う。試合時間が残り2分を切ったところだった。

 

 大野は組み手争いでも力負けしない。場外際に押し込むと、右足で相手の右足を内側から巻き込むようにして浴びせ倒す。文句なしの一本――。大野はようやく安堵の表情を浮かべた。「プレッシャーは大きかった。“金メダルを獲って当たり前”という声が聞こえていた。当たり前のことを当たり前にやる難しさがあった」と明かした。「普通の国際大会と一緒」と五輪という特別意識で硬くなることはなかった。

 

 準決勝以外の4勝はすべて一本。美しく一本を取る日本の柔道を体現した。「柔道の素晴らしさ、強さ、美しさを伝えられたんじゃないかと思う」と大野。ロンドン五輪では史上初めて金メダルゼロという屈辱を味わった男子柔道に再び金メダルをもたらした。

 

「何も持たないでは帰れない」

 

 連覇の可能性は潰えていた。それでも「何も持たないでは日本に帰れない」と松本は銅メダルを必死に獲りにいった。同い年で日本のコマツに所属する連珍羚(台湾)とのメダル争いを制した。

 

 ロンドン五輪で頂点に立った松本は、この4年間苦しんできた。金メダリストのみが背中に付けることを許されるゴールデンゼッケンは、彼女の重荷となった。勝てない時期も経験し、浮き沈みのある時を過ごした。

 

 昨年の世界選手権を制して松本に復調の兆しは見えつつあった。“野獣”の異名を持つ鋭い眼差しは健在。松本は攻撃的な姿勢を失わず、初戦は難なく一本勝ちでクリアした。準々決勝は昨年の世界選手権3位のオトンヌ・パビア(フランス)が相手だった。延長戦までもつれる熱戦を制し、準決勝へとコマを進めた。

 

 準決勝は世界ランキング1位のスミヤ・ドルジスレン。彼女も昨年の世界選手権銅メダリストである。連覇への道のりは容易くはない。勝負は一瞬だった。開始30秒も立たぬうちにドルジスレンの力技に松本は屈した。背負い投げで一本負け。この瞬間に連覇の夢は途絶えた。

 

「一度負けているので負けられない」。最後は勝って終わる――。それが女王のせめてもの意地だった。3位決定戦は優勢勝ちを収めて、2大会連続の表彰台に立った。

 

(文/杉浦泰介)

 

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