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(写真:ミルコは無差別級トーナメント1回戦から登場する予定)

 早いもので、今年も、もう半分以上が過ぎ8月を迎えている。日々、“暑い”。でも、この“暑さ”もリオデジャネイロ五輪が終わるころには収まりつつあるだろう。

 

 しかし、夏が終わっても“熱さ”は消えることはない。秋から年末にかけての格闘技シーズンが到来するからだ。

 

 先日、『RIZIN』の年末に向けてのイベントスケジュールが発表された。開かれるのは3大会で、タイトルは『RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX2016』。9月25日、12月29日、そして大晦日に、いずれも“聖地”さいたまスーパーアリーナで行われる。

 

 9月の大会においては、すでに一部のカードが発表されている。ヒクソン・グレイシーの息子クロンが所英男と一騎打ち。そして女子レスリング元世界王者の山本美憂が総合格闘技デビューを果たす。いずれも興味深いが、私がそれ以上に注目しているのは今シリーズの目玉である「無差別級トーナメント」だ。

 

 昨年は12月29日、31日の2日間にわたり「ヘビー級トーナメント」が開かれ大いに盛り上がった。世界には、まだまだ強く、個性的なヘビー級ファイターがいることを再認識させてくれるKO続出のトーナメント戦だった。だが今年はそれ以上にスケールが大きく、意義深い闘いが期待できそうである。

 

 トーナメントの出場枠は14だが、すでに出場9選手の名前が発表されている。

 

ヴァンダレイ・シウバ(ブラジル・40歳/初代PRIDEミドル級王者)

ミルコ・クロコップ(クロアチア・41歳/2006PRIDE無差別級GP優勝者)

藤田和之(日本・45歳/第2代IGF王者)

バルト(=把瑠都、エストニア・31歳/大相撲元大関)。

イリー・プロハースカ(チェコ・24歳/2015ヘビー級トーナメント準優勝)

アミール・アリアックバリ(イラン・28歳/レスリング・グレコローマンスタイル96キロ級&120キロ級元世界王者)

テオドラス・オークストリス(リトアニア・24歳/2015ヘビー級トーナメント・ベスト4)

カール・アルブレックソン(スウェーデン・22歳/4月『RIZIN1』で勝利)

ワレンティン・モルダフスキー(ロシア・24歳/2015ヘビー級トーナメント・リザーブ戦勝利)

 

 一時代を築いたビッグネームと若き実力者が混在する興味深い布陣。まだ残り5人が決定していないが、この9人の顔ぶれを見るだけでも、KO決着必至の苛烈なサバイバルトーナメントが繰り広げられることは間違いないだろう。

 

“懐メロ”ではなく世代交代

 

 さて、今回のトーナメントのテーマは何だろうか?

 

 シウバは、こう言ったそうだ。

「ミルコと闘いたい」

 

 過去に敗れている相手にリベンジを果たしたいという想いがあるのかもしれないが、それは観たいと思わない。なぜならば、トーナメントのテーマはシウバ、ミルコといった古豪の復権などではないからだ。

 

 知名度の高い彼らが花道をリングに向かう際には場内は熱狂に包まれることだろう。しかし、悲しいことに全盛期を過ぎた彼らに以前の強さは、もはやない。ファンはそのことをよく知っているから、「ミルコvs.シウバ」といった“懐メロ”を、いまさら聴きたいとは思っていない。

 

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(写真:女子も山本美憂の参戦が決まり、新たな時代へ突入しようとしている)

 今回のテーマ、それは「世代交代」である。

 

 誰がシウバを倒すのか。

 誰がミルコを沈めるのか。

 

 スーパースターに引導を渡した者が、次世代のスターとなる権利を得て、格闘新時代の扉は開かれるのだ。

 1回戦のカードが一つ発表されている。藤田vs.バルト。このカードが真っ先に決まったことにも、テーマが「世代交代」であることが色濃く表れている。

 

 1990年代後半から2000年代前半にかけての格闘技全盛期に、心を熱くしたファンは、年末のトーナメントの闘いを見ながら、切ない思いを抱くことになるかもしれない。昨年末に桜庭和志vs.青木真也を目のあたりにした時のように。つまりシウバ、ミルコが新鋭ファイターの踏み台とされる可能性が極めて高いのだ。少しばかり寂しい気持ちになることを覚悟して、格闘技新時代の幕明けに立ち会いたいと私は思っている。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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