御三家ならぬ「御四家」――。初代スポーツ庁長官・鈴木大地は五輪で期待される競技について問われると、しばしば、この言葉を口にする。

 

 鈴木のいう御四家とは柔道、体操、レスリング、水泳(主に競泳)の4競技。これらは、日本五輪史の中でも、ひときわまぶしい輝きを放っている。いわば「お家芸」だ。

 

 今回のリオデジャネイロ五輪も含め、日本は夏季五輪で計137個の金メダルを獲得している。このうち柔道が39個、体操が31個、レスリングが28個、水泳が22個。御四家が占める割合は、実に87.5%。なるほど御四家とは言い得て妙だ。

 

 リオ五輪でも御四家のプレゼンスは圧倒的だ。7つの金メダルは全て先の4競技。メダル総数で見ると約85%。(8月16日現在)

 

 文部科学省は2020年に向け、ストロングポイントをさらに強化することで代表の牽引役にしたいと考えている。メダルを狙える団体、個人が確実に結果を出してくれないと、目標とする「金メダル数世界3位」には届かない、というわけだ。

 

 ビジネスの世界で言うところの「選択と集中」だ。これは限られた経営資源を得意とする事業に集中的に投下する一方で、見込みのない事業からは素早く手を引くドラスティックな経営戦略だが、短期間で利益を求めようとするなら、このやり方は正しい。スポーツの世界においても、御四家をはじめとする「重点競技種目」に強化費を傾斜配分する方針に異存はない。

 

 とはいえ、スポーツの「利益」はメダルの色や数だけで測れるものではない。強化当局は多様化への目配りや底上げのための後押しも忘れてはならない。

 

 参考になるのが、冬季五輪の男子フィギュアスケートだ。日本がこの種目に初めて代表を送り込んだのは1932年のレークプラシッド五輪。2010年バンクーバー五輪で高橋大輔がメダル(銅)を獲得するまでに78年の歳月を要した。もし、途中で「選択と集中」の論理が持ち込まれ、リストラの対象になっていたら、今のような花形種目に育つことはなかっただろう。

 

 リオでは羽根田卓也がカヌー競技で初めて五輪の表彰台に立った。夏季五輪において、日本がメダルを獲得した競技はこれで24になった。25競技目を待ちたい。

 

<この原稿は16年8月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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