広島が四半世紀ぶりのリーグ優勝を果たせば「神ってる」は今年度の流行語大賞に選ばれるかもしれない。

 

 

 この言葉は6月18日、マツダスタジアムでのオリックス戦後、監督の緒方孝市の口から飛び出した。

「いやぁ、神ってる。何かやってくれるんじゃないかと期待はしていたけど、まさか2試合連続サヨナラホームランを打つとは……。いやぁ、信じられないよ」

 

 9回裏、1対3と2点のビハインド、1死一、三塁の場面。ここで打席に立った5番・鈴木誠也はオリックスの守護神・平野佳寿のフォークボールを左中間スタンドに突き刺した。絵に描いたようなサヨナラ3ランだった。

 

 まるで再現フィルムでも見ているかのようだった。というのも前日の試合でも鈴木は比嘉幹貴からサヨナラ2ランを放っているのだ。スコアは4対4。延長12回裏の場面で外角のスライダーをレフトスタンド上段に叩き込んだのだ。

 

 勢いに乗る鈴木は、このカード3戦目でも3試合連続となる決勝ホームランを放ち、一躍、全国区に躍り出た。

 

 東京の二松学舎大付高から入団4年目の22 歳。二刀流の北海道日本ハム・大谷翔平や甲子園で春夏連覇を成し遂げた阪神・藤浪晋太郎と同世代だ。

 

 ただ、こちらは甲子園に出場していない。高校時代まではピッチャーだったが、プロ入りと同時に野手に転向した。

 

 背番号51。同じ姓、経歴も似ていることから「赤イチロー」とも呼ばれている。

 

 プロ入りした頃から練習熱心さには定評があった。厳しい指導にも音を上げない。一心不乱にバットを振り続ける姿は、広島全盛期のリードオフマン高橋慶彦を彷彿とされるものがある。そういえば、高橋も東京の高校(城西)出身である。ピッチャーとして入団し、プロ入りと同時に野手に転向した。

 

 似ているところは他にもある。高橋がレギュラーとして定着したのは、入団4年目の1978年。この年、3割2厘をマークし、ショートのポジションを獲得したのである。

 

 鈴木も入団4年目の大ブレークだ。9月5日現在、打率3割3分6厘、24本塁打、85打点、15盗塁。パワーに加え、足もある。順調に育てば、将来は広島どころか日本を背負って立つ選手になるだろう。

 

 日本代表の小久保裕紀監督も鈴木のプレーを見て「(代表に)右バッターの外野手が不足している中で、非常にいい活躍をしている」と目を細めていた。

 

 鈴木の最大の長所は、狙ったボールを一振りで仕留める積極性と確実性だ。この1月、石井琢朗打撃コーチの紹介で自主トレをともにした福岡ソフトバンク・内川聖一の影響が大きいのではないか。石井は内川の横浜時代の先輩である。

 

 両リーグで首位打者に輝いた内川には「審判の決めるストライクゾーンと僕のストライクゾーンは一緒ではない」との持論がある。自分だけのストライクゾーンを持ち、それを狙う――。迷いから解き放たれた鈴木のバッティングは、内川理論に依拠している。

 

 

<この原稿は『サンデー毎日』2016年8月7日号に掲載された原稿を一部再構成したものです>


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