(写真:熊本市中心街にある傷ついたビル)

(写真:熊本市中心街にある傷ついたビル)

「その街には、今もなお震災の爪痕が色濃く残っていた……」

 8月31日(水)、熊本地震の影響により開催が延期となっていたJ2第11節となる「ロアッソ熊本対愛媛FC」の一戦が、うまかな・よかなスタジアム(熊本市東区)にて行われた。

 愛媛からおよそ10時間をかけ、ようやく試合会場のスタジアムへと到着。新耐震基準にて建設された「うまかな・よかなスタジアム」。近代的で立派な佇まいである。一見すると地震の影響は感じられないが、やはりダメージを受けており、使用の再開までは、約3カ月を要した。

 それでも全面使用には至っていない。壁や柱の剥がれた部分や破片を除去し、安全確認がされた上で、やっと、この日(8月31日)からサイドスタンド(ゴール裏席)の使用が再開されたのである。

 ただ、バックスタンド側のダメージは更に深刻で復旧の目途が立っていない。それでもサイドスタンド使用再開のニュースは、熊本の皆さんにとっては明るい話題のようだ。試合前から場内アナウンスで何度も使用再開の報告がされ、その都度、会場全体から大きな拍手が起こった。

 私たち、愛媛サポーターも、そのサイドスタンドに陣取り、横断幕の設置など、応援の準備に取り掛かる。
 
 夕日がスタジアムの屋根を赤く染め始める頃、時刻は午後7時を廻り、試合がスタート。序盤、単発的にチャンスを創り出すものの、得点には至らない愛媛。イライラする展開が続く。
 

(写真:スタジアムで応援するくまモン)

(写真:スタジアムで応援するくまモン)

 苛立ちが募る中、前半28分。熊本に自陣深くまでボールを運ばれると、ペナルティアークからフリーでシュートを放たれる。ボールはゴール脇に逸れていく軌道だったが、ゴール前に陣取るMF菅沼実選手がワンタッチでコースを修正し、愛媛のゴールネットを揺らした。2006年に愛媛FCに所属し、活躍していた菅沼選手。所縁のある選手に先制点を決められ、悔しさが込み上げてくる。

 その後、一進一退の攻防が続く中、43分、スタジアムを震度5弱の有感地震が襲った。想像もしていなかった突然の出来事に最初は、「応援で飛び跳ね過ぎて、客席が揺れ始めたのか?」と勘違いしてしまった。直後に横揺れも始まったので、さすがに地震であることに気付いた。慣れていない私たちにとっては、恐怖を感じる一瞬だったが、熊本の方々は落ち着いていて、試合も中断することなく続けられた。

 試合は、1点ビハインドのまま後半へと突入。立ち上がりから愛媛が積極的な攻撃展開で反撃を試みる。後半9分、敵陣内の左サイドでボールを受けたMF白井康介選手。ドリブルで中央へと切り込むと、ペナルティアークに陣取るMF藤田息吹選手とのワンツーパス。巧みなパス交換で敵DFをかわすと、次の瞬間、鋭く右足を振り抜く白井選手! ボールは、GKの頭上をすり抜け、ゴール右隅に突き刺さった! 好連携から生まれたビューティフルゴールだった! 8月18日に長男が誕生した白井選手はチームメイトと「ゆりかごダンス」で喜びを表現した。

 素晴らしい同点弾で勢いに乗る愛媛。後半43分には直近のリーグ戦でJ初ゴールを挙げ、天皇杯1回戦でもハットトリックを決めたDF鈴木隆雅選手が、敵陣右サイドをドリブルで駆け上がる。敵DFと競り合いつつ、鈴木選手はボックス横からゴール前に向けて低い弾道のクロスを供給。このボールに藤田選手が前傾姿勢から地面を蹴り、ダイビングヘッドで合わせる。相手GKが一歩も反応できない見事なゴール! 土壇場での逆転劇に愛媛サポーターは歓喜した。


「ふじた! いーぶきアレー!」
 藤田選手を称えるチャントが鳴り止まない。

 

 その後、長いアディショナルタイムを消化し、試合終了。スコアは2-1で愛媛FCが見事な逆転勝ちを収めた。J2リーグ戦では5試合振りの勝利。最後は選手とサポーター皆でラインダンスを踊り、喜びを分かち合った。
 

(写真:危険と認定された立ち入り禁止の建物)

(写真:危険と認定された立ち入り禁止の建物)

 スタンドでの片付けを終え、気分良くスタジアムを後にし、熊本市の中心街へと戻るため「光の森駅(JR九州)」へ向かった。駅に着くと、ホームに人が溢れていた。サッカー観戦をしていた人たちが押し寄せているのかと思ったが、そうではなかった。試合中に起こった地震により、電車が徐行運転を行い、ダイヤに大幅な乱れが生じているらしい。結局、通常なら20分で中心街に戻れるところを2時間以上も要してしまった。

 

 自然災害による不便さを少しながら実感しつつ、翌日は熊本駅の周辺を散策して廻った。復興が進んでいるようにも思える熊本市中心街だが、崩れかけのビルや家屋、手付かずのまま放置された瓦礫が至るところで見受けられた。地震による被害の大きさがリアルに伝わってきた。

 そんな痛々しさがいまだに残る中、それでも熊本サポーターをはじめ地域の皆さんは、明るく力強く前向きに暮らしている。つらい気持ちも見せず、私たちにも親切に接してくださり、とても感銘を覚えた。

 震災直後の4月以降、愛媛FC事務局や選手たち、そして私たちサポーターはスタジアムや街頭での「熊本地震義援金募金活動」等を通じて支援活動に取り組んでいる。だが、まだまだ充分とは言えないのかもしれない。

 

 今後も同じサッカーの仲間として、「絆」を感じながら、復興に向けたお手伝いをしていきたいと思っている。

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja

Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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