リバプール、エバートン、マンチェスターU、アーセナル、トットナム――。いわゆる“ビッグ5”のオーナーたちが、新リーグの設立に向けて密談を重ねていたころ、マンチェスターCは2部リーグの下位でもがいていた。

 

 とはいえ、ファンはそれでもある程度は満足できていたはずだ。その前のシーズンまで、彼らが愛する空色のチームは3部でくすぶっていたのだから。いまから26年前のあのころ、自分たちのチームがイングランドはおろか、世界からも注目されることになると考えたシティのファンが、果たしてどれだけいただろうか。

 

 そもそも、なぜ“ビッグ5”が新リーグの設立をもくろんだかと言えば、リーグに入ってくる放送権料が、1部から4部までの92チームで公平に分配されてしまうことに、強い不満があったからだった。人気のある彼らは、弱肉強食の極めて資本主義的なシステムを求めていたのである。

 

 Jリーグが、3位以上に入ったチームを対象に「強化配分金」を新設することを検討しているという。J1に手厚く、特に上位になればなるほどうまみが大きくなるシステムが考えられているようだ。個人的には、諸手をあげて賛成である。

 

 Jリーグが発足した当時からわたしが言い続けてきたことのひとつに「ジャイアント・チームの必要性」がある。応援するチームが勝つのと同じぐらい、負けてくれればうれしいチームの存在。そういうチームが生まれれば、というより生まれなければ、リーグはいつまでたっても活性化しない。Jリーグ発足当時はヴェルディが、最近ではレッズがその権利をつかみかけたが、いずれも“巨人”とはなりえなかった。

 

 強化配分金が創設されれば、少なくともいまよりは、富と戦力の集中が起こりやすくなる。優勝をきっかけに、下位のチームから主力を引き抜く“残酷”な手法もより一般化するだろう。当然、プレミアリーグが発足した時がそうだったように、中位以下のクラブからは怨嗟の声もあがるだろうが、それも、リーグ発展のためには致し方のないこと、とわたしは思う。

 

 だが、忘れてはいけない。強者がより富むためにつくられたプレミアリーグには、弱者が一気にのし上がるための一手も残されていた。そして、それと同じ道が、いまのJリーグには用意されていない。つまり、マンチェスターUを産み出すことはできても、マンチェスターCは産み出すことができない。それが現在のJリーグなのである。

 

 プレミアが発足したころ、箸にも棒にもかからない存在だったシティは、いかにしてのしあがることができたのか。「巨人」の育成に動き出したJが次に考えるべきは外国資本による「新・巨人」の可能性をつくることである。

 

<この原稿は16年9月22日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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