“フィニート”――最高級の完成度を表現したこのスペイン語にふさわしいボクサーは、リカルド・ロペス、彼をおいて他にはいないと言ってよいだろう。ロペス氏の業績を称え、大阪にメモリアルホールが開設された。そしてそのオープニング・イベントとして4月16日にロペス氏直々によるボクシング教室がロマンサホールにて行われ、数多くのボクサーが集まった。構えなどの基本から、世界戦で多用したフェイントのかけ方など、ひとりひとりに丁寧に教えるロペス氏の情熱に引き込まれ、あっという間に90分が過ぎていった。
(写真:身ぶりを交えながら日本人ボクサーたちを指導するロペス氏)
 ロペス氏はWBC世界ストロー級王座を22度防衛、そしてWBAとの王座統一した後はIBF世界ジュニア・フライ級王座に就き2階級制覇を成し遂げた。アマ40戦全勝、プロ51戦50勝(37KO)1分のパーフェクトなレコードを誇り、生涯敗北を経験したことがない。彼がボクシング界に残した業績を上げればきりがない。

 しかし、我々に強烈なインパクトを与えたのは、そのファイティングスタイルにあった。試合開始のゴングが鳴らされる前から早々とガードを上げて顎を引き、上体を降りながら丁寧に構えを確認していた姿は、あたかも4回戦ボーイが自らを落ち着かせるような仕草に映った。極度なまでに打たれることを嫌い、完璧なガードを保ちつつも常に攻めの姿勢を崩さず、柔軟なステップワークからフォロースルーの充分に効いた右ストレート、そしてメキシカン特有の、伸びのある左アッパーでKOの山を築いた。彼の成功を支えた練習方法、テクニック、そしてボクシングに対する考え方を学ぶチャンスは、日本では始めての事であった。

 ロペス氏はメキシコの名伯楽、クーヨ・エルナンデスから教わったボクシングの基本から、自らが世界戦の中で完成させたフェイントのテクニックまで、ひとりひとりに丁寧に指導した。「基本を大切に、ディフェンスを忘れるな」、ロペス氏が指導中に繰り返し言い続けた言葉に、彼の成功の秘訣があるように感じた。

「日本人ボクサーはメキシコ人ボクサーと非常によく似ている。非常に勇敢でハートが強い。しかし足りないものはテクニック、特にディフェンスが劣っている。日本人ボクサーに私のディフェンステクニックを伝えたら、非常にすばらしいボクサーが多く輩出されるだろう」
 それがロペス氏が来日しようと思った大きな理由である。メキシコ在住のロペス氏は今後も定期的に来日して指導に当たる予定で、今年はあと2回の来日が予定されている。日本から“フィニート”なボクサーが生まれることが期待される。

(上間伸浩)