長年待ちわびた歓喜の瞬間が、ようやく広島の街に訪れました。カープの選手たちは本当によく戦い、25年ぶりに掴んだ素晴らしい優勝だと思います。次に目指すべきものは、32年ぶりの日本一。それには、まずはクライマックスシリーズ(CS)を突破し、日本シリーズを勝たなければなりません。まだまだ気を緩められませんね。

 

 首位のカープは、CSのファーストステージを勝ち上がってきた巨人か横浜DeNAと戦います。いずれにしても、カープには1勝のアドバンテージがありますし、本拠地開催なので有利なことには変わりません。シーズン通りの戦い方ができれば、CS突破は問題ないでしょう。しかし、短期決戦では“普段通りに戦う”ことほど、難しいものはないんですよ。

 

 僕は現役時代に、1984、86、91年の3度日本シリーズに出場しました。あの独特な雰囲気の中でプレーすると、どうしても平常心を失ってしまうのです。本来の自分を取り戻すためには、やはり初戦の入り方が重要です。バッターは1打席目にとにかく集中する。1打席目にヒットが出たらホッとして、平常心を取り戻すことができるからです。ピッチャーは初回の入り方ですね。いい形で初回を抑えることができれば、自然と本来の自分を取り戻すことができます。

 

 今季、ぶっちぎりで優勝したカープに対しては、日本シリーズに出て当たり前という雰囲気がありますが、CSには下剋上があります。ファイナルステージで戦うとしたら、2位の巨人よりも3位のDeNAが怖いでしょうね。3位から這い上がってきたチームには勢いがあります。怖いもの知らずのDeNAと戦う方が、やりづらさはあると思いますよ。

 

 “奇策”が勝敗を分ける

 今季のカープ打線は、鈴木誠也(打率.338)をはじめ、菊池涼介(打率.315)、新井貴浩(打率.300)と3割打者が3人も揃っています。レギュラーシーズンの成績をみると、カープはずば抜けた戦力を誇っていますが、短期決戦でもそれが発揮できるかどうかは分かりません。

 

 レギュラーシーズンで好調だった選手が、ペナントレースで急にスランプに陥ることもあります。逆に短期決戦での“ラッキーボーイ”も現れる。昔のカープでいうと、長嶋清幸が後者に当てはまるでしょう。彼は、84年の日本シリーズで3本塁打10打点の活躍でMVPに選ばれました。どちらかといえば、僕も短期集中型のタイプだったので、長嶋に近かったのだと思います。

 

 短期決戦で大事なことは“奇策”です。例えば早々に王手をかけて、相手に余裕を見せたいときは、あえて若いピッチャーを投げさせることもあります。逆に絶対に落とせない試合であれば黒田博樹やクリス・ジョンソンらエースを中3日で投げさせるという思い切った采配も大切です。状況に応じた選手起用ができるかどうか、緒方孝市監督の手腕にも注目したいと思います。

 

 カープは、レギュラーシーズンの最終日からCSのファイナルステージまで10日間も試合がありません。実戦感覚が鈍るのではないかと不安視する声もありますが、恐らく主力選手はフェニックスリーグに参加して実戦形式の練習ができるので心配はないでしょう。カープは10日間という準備期間をどのように過ごすのか。選手たちには、しっかりとコンディションを整えた状態で、ペナントレースを迎えて欲しいと思います。

 

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