なんとしても、日本シリーズに行きたい。クライマックスシリーズ(CS)に臨むこの気持ちは、誰も同じだろう。もちろん、私もです。

 

 第1戦を取ったことは、きわめて大きい。さすがクリス・ジョンソンだった。インコースをつくストレート、カットボール。タイミングを外すカーブ。実戦の間隔が空くという不利を吹き飛ばした技術と精神力に乾杯!

 

 もうひとつ。安心したのは菊池涼介だ。7回裏に放ったタイムリーヒットは、バットを強く振り切っていた。これなら大丈夫、と思わせるスイングだった。

 

 とはいえ、油断は禁物だ。CSを勝ち抜けるためのカギは、走塁ではないか、と思う。

 

 短期決戦は、とにかく勢いが大事である。ひとつ勝てばポンポンと連勝する可能性が出てくるし、負ければ連敗の悪夢におびえなくてはならない。

 

 緊迫した投手戦もいいけれど、勢いをつけるためには、まずは得点が必要だ。

 その点、今季のカープは、幾度となく走塁で局面を打開してきた。

 

 田中広輔が出て、菊池が右打ちをして、一挙に一、三塁とか。一塁走者が、新井貴浩の長打でホームに突入とか。おぉ、鋭い、と叫びたくなるような走塁で得点し、チームに勢いを与えてきた。これも優勝の大きな要因である。

 

 ここで注目しておきたいのが、河田雄祐外野守備・走塁コーチだ。今季、カープに復帰して、三塁ベースコーチを務めた。走塁に、去年までよりも明らかに鋭さが増したのは、河田コーチの功績が大きい。

 

 そして、去年、三塁ベースコーチを務めていた石井琢朗コーチは、打撃コーチに就任した。この人事の妙が、優勝を生んだという側面は確実にある。

 

 昨シーズンは優勝候補に挙げられながらも、貧打に泣いた。今季の序盤も当然、また昨年の二の舞か、との不安はよぎった。しかし、明らかに違っていたのは、2ストライクと追い込まれても、どの打者もはっきりと粘る姿勢を見せていたことだ。石井コーチは「簡単に三振をしない」ことを、方針のひとつに挙げていたという。

 

 この方針は、結果として打線のつながりを生んだ。

 つまり、2人のコーチがチームに得点する力を与え、勢いを生み出した優勝でもあったのである。

 

 昔、生物の時間に「個体発生は系統発生をくり返す」という説を習いましたね。大ざっぱに言えば(大ざっぱにしか知らない)、生物の個体が発生する過程は、その個体の種が発生し進化して現在に至る過程をくり返しているのだ……というようなことだったと思う。

 

 この伝でいけば、カープがCSから日本シリーズへ進んで日本一になる過程を個体発生と考えればよい。そして、ペナントレースで開幕から9月の優勝までの過程を系統発生になぞらえる。要するに、日本一になるには、CS初戦から日本シリーズ最終戦に向けて、いわば系統発生を、すなわち今シーズンの過程を最初からくり返せばいいのではないか。

 

 つまりCSでも、とにかく三振せずに粘る。ヒットが打てなくても点を取る。相手の度肝を抜く果敢な走塁をする。7、8、9回を中継ぎ、抑えで締める。

 

 このシーズン前半の戦い方を貫けば、やがて鈴木誠也が爆発し、8月から9月の“逆転のカープ”の再現となって、日本一にまで辿り着けるにちがいない。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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