あるオリンピックで、寸でのところでメダルを逃した選手がいる。4位という順位は立派な入賞のはずだが、その選手には無力感しか残らなかったという。

 

 

 

「オリンピックに出たと言うと、必ず聞かれるんです。“メダルは?”と。“4位でした”というと、“あぁ、そう。残念でしたね”と。3位と4位の差が、これほど大きいとは想像もしていなかった。よくオリンピックは“メダルじゃない”と言う人がいるけど、はっきり言ってメダルです。だから後輩たちには、こう言いたい。“石にかじりついてでもメダルを獲ってきなさい”と……」

 

 リオデジャネイロ五輪、バドミントン女子シングルス準々決勝は日本人同士の対決となった。世界ランキング6位の奥原希望と12位の山口茜である。

 

 2人は国際大会で5度対戦し、いずれも奥原に軍配が上がっている。しかし、オリンピックは何が起こるかわからない。

 

 第1ゲームを奪ったのは3学年下の山口だった。もう1セット取れば、晴れて準決勝進出である。そうなれば、シングルスとしては日本人初のメダルが見えてくる。

 

 だが、ここから奥原は本領を発揮する。持ち味である粘り強さと、四隅へ打ち分ける正確なショットを武器にゲームをコントロールした。

 

 山口は第2ゲームを17-21と接戦の末に落とすと、ペースは完全に奥原へ。第3ゲームは10-21と大差で敗れた。

 

 勝った奥原は、運にも恵まれた。準決勝でストレート負けを喫したものの、3位決定戦は相手が棄権し、銅メダルに辿り着いた。

 

 一方、5位に終わった山口は試合後、涙ながらに語った。「この経験を次にいかして、もっと強くなりたい」

 

 五輪の借りは五輪でしか返せない。山口は誰よりも、そのことをわかっている。

「4年後頑張ろうではなく、次の試合に勝てるよう頑張りたい」

 

 リオ五輪後初のスーパーシリーズとなったヨネックスオープンジャパン準々決勝で、リオ五輪銅メダリストの奥原にストレート勝ちを収めたのだ。

 

 第1ゲームは7-10のビハインドから13連続得点するなど奥原を圧倒した。第2ゲームはリオ五輪同様競った展開になったが、勝ったのは山口だった。粘る奥原を振り切って、23-21で制した。

 

 それは国際大会7戦目にして、奥原から奪った初めての白星だった。

 

 さて、今後の目標は。

「コンスタントにベスト8、ベスト4に入って、そこから勝負していくイメージ。そこを最低ラインにしていれば、少しずつ底上げになるのかなと……」

 

 続く韓国オープンでは、3年ぶりのスーパーシリーズ優勝を果たした。

 

 決勝では地元韓国の成池鉉と対戦。世界ランキングでは格上、さらには対戦成績で1勝4敗と苦手にしている相手に2-1で競り勝った。

 

「何も知らない16歳での優勝だった3年前とは意味合いが違う」

 

 足元をしっかり見据えながら、4年後に向け、着実に歩みを進めている。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2016年10月23日号に掲載されたものです>

 


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