チームの内情は知らない。ただ、記者との関係に関しては、末期的な状況に陥りつつあるのかもしれない。すべての発言は疑いの目をもって見られ、いとも簡単に反発を招く。ハリルホジッチ監督のことである。

 

「ハリル迷言」――18日付のスポニチには、そんなタイトルが躍っていた。迷言! ただごとではない。完全に侮辱の意が込められたこの言葉を使った以上、スポニチとしてはハリルホジッチに見切りをつけたのだとわたしは見た。

 

 記事が問題としていたのは、「身長190以上ないと良いGKとは言えない」というハリルホジッチ監督の言葉だった。通訳の問題もあったのだろうが、なるほど、ここまで決めつけられてしまっては、代表に呼ばれている1メートル90に満たないGKは立つ瀬がない。記者が反発する気持ちはよくわかる。

 

 ただ、一般論として考えた場合、監督の言葉にはある種の真理も含まれている。GKは、言ってみればバスケットボールの選手のようなものである。マグジー・ボーグスのように身長1メートル60でもNBAのスーパースターになった選手もいるが、それは、背が低い方が有利だということでは断じてない。少なくとも「身長180以上ないと良いGKとは言えない」と言われたのであれば、反発するJリーガーはほぼ皆無だったはずだ。

 

 1-1で引き分けた先のオーストラリア戦の後半、決定的なヘディングシュートを阻まれた小林は「決まったと思ったのに」と驚きを隠せなかったそうだ。このことの持つ意味は重い。残念ながら、彼はJリーグでそのレベルのGKと対峙した経験がほとんどない、ということになるからだ。

 

 試しにいま登録されているJ1のGKのサイズを片っ端から調べてみた。全80人中、1メートル90を超えているのは12人(そのうちの3人は外国人)。ちなみに、きょう20日に行われるドラフト会議の対象となる高校・大学のプロ野球志望届を提出した216人のうち、1メートル90以上は9人だから、人口比で言うと、サッカー界、まずまず頑張っていると言っていい。

 

 ただ、この数字にはちょっとした落とし穴がある。確かに数はそこそこなのだが、レギュラーを獲得している1メートル90以上のGKがほとんどいないのである。今回のGK合宿にハリルホジッチ監督がJ2松本山雅からシュミットを呼んだのも、なるほど、わからないではない。

 

 90年代、ベルギーの守護神として君臨していたミシェル・プロドオムの身長は1メートル78だったとされる。それでも、彼はバスケットのジョーダンになぞらえて「エア」と呼ばれるほど、高いジャンプ力を誇っていた。果たして、いまのJリーグに、身長のハンデを打ち消す武器を持ったGKがいるか。そもそも、武器を持とうとしているか――。いろいろと理解、賛同できないところは多々ありつつ、監督のGKの見方を完全否定はできないわたしである。

 

<この原稿は16年10月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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