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(写真:河野<左>にとっては10回目の世界戦となる)

 今年も年末は、「格闘技色」に染まる。

 総合格闘技の『RIZIN』(12月29、31日・さいたまスーパーアリーナ)だけではない。ボクシングの世界タイトルマッチが昨年末同様に7試合行われるのである。対戦カードは次の通りだ。

 

[12月30日、有明コロシアム]
▼WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ
 井上尚弥(王者=大橋)vs.河野公平(挑戦者/前WBA同級王者=ワタナベ)
▼IBF世界ライトフライ級タイトルマッチ
 八重樫東(王者=大橋)vs.相手未定
▼WBO世界バンダム級タイトルマッチ
 マーロン・タパレス(王者・フィリピン)vs.井上拓真(挑戦者/7位=大橋)

 

[12月31日、京都・島津アリーナ]
▼WBA世界フライ級タイトルマッチ
 井岡一翔(王者=井岡)vs.スタンプ・キャットニワット(挑戦者/1位=タイ)

 

[12月31日、岐阜メモリアルセンター]
▼WBO世界ライトフライ級王者決定戦
 モイセス・フエンテス(1位=メキシコ)vs.田中恒成(2位=畑中)

 

[12月31日、大田区総合体育館]
▼WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
 ジェスレル・コラレス(王者=パナマ)vs.内山高志(挑戦者/2位=ワタナベ)
▼WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ
 田口良一(王者=ワタナベ)vs.カルロス・カニサレス(挑戦者/3位=ベネズエラ)

 

 2人が歩んできた対照的なボクシング人生

 

 内山の王座返り咲きが成るか否か。コラレスとの約8カ月ぶりの再戦も大いに気になる。田中は8戦での2階級制覇(日本タイ記録)を賭けて闘う。井上拓真は兄に続けるか。注目のカードが揃ったが、その中でも私が最も興味を抱くのは、“日本人対決”井上尚弥vs.河野公平である。

 

 井上は、来年中に4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)と闘うことを熱望している。それに向けて今回の対戦相手には、26歳の気鋭ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ=元WBA&WBO世界フライ級王座)が用意されるのではと噂されていた。しかし、交渉は難航したようだ。そこで急遽、王座を失ったばかりの河野に白羽の矢が立ったのである。

 

 奇抜なマッチメイクだと思う。
 井上23歳、河野35歳。ひとまわりほどの年齢差のある両者は、対照的なボクサー人生を歩んできた。

 

 井上は高校1年生の時にインターハイ、国体、高校選抜の3冠を制して鳴り物入りでプロデビュー。わずか6戦目で世界のベルトを腰に巻いたエリートボクサーだ。プロ入り後も11連勝中である。

 

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(写真:戦績は42戦32勝9敗1分と決して華々しいものではない)

 対して河野は、たたき上げの雑草。2000年秋のデビュー戦で、いきなり敗北を喫している。それから約8年の歳月をかけて実績を積み、世界初挑戦(WBA世界スーパーフライ級王者決定戦)を果たすも名城信男(六島)に判定負け。その2年後の10年に2度目の世界挑戦にこぎつけたが、ここでも敗れる。そして、12年大晦日、進退をかけての3度目のチャンレンジでテーパリット・ゴーキャットジム(タイ)に4ラウンドKO勝ちし、ようやくタイトル(WBA世界スーパーフライ級)を手にしたのである。黒星デビューから12年、35戦目のことだった。

 

 一発で相手を倒すパンチを秘める井上のファイトスタイルには派手さがある。だが、河野は粘り強く相手と闘い抜く地味で不器用なタイプ。

 

 そんな河野は11月9日に開かれた記者会見で言った。
「まさか、こんな話が来るとは思っていませんでした。相手が強いことはよく知っています。最後だと思って闘います。これまでにやってきたことを、すべて出し尽くして、熱い試合をしてチャンスを活かしたい」

 

 波乱の可能性もゼロではない

 

 予想をすれば「井上の圧勝」である。

 だが、リング上では何が起こっても不思議ではない。

 

 もしも、粘り強く闘う河野との攻防の中で井上が拳を傷め、長期戦を余儀なくされたなら予想外の展開になるかもしれない。ボクシングの技術においては、すべての面で井上が上回っていると思うが、河野も王者に勝るものを二つ持っている。それは、長きキャリアの中で培った絶対に諦めない雑草魂。もう一つは、とてつもない練習量によって、養われた無尽蔵のスタミナ。

 

 賭け率は「9対1」で井上有利。でも、消耗戦の末の河野の判定勝ちも無いとは言えないだろう。

 内山が、まさかのKO負けを喫し、長谷川穂積が奇跡を起こした。それに、ドナルド・トランプがアメリカ合衆国の大統領に就任するのである。波乱の年の瀬に、もう一つ、大番狂わせはあるか?

 

 2016年12月30日。
 立川で『KEIRINグランプリ』を見終えたら、すぐに有明に駆けつけるつもりでいる。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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