伊藤: 昨年のインチョンアジアパラ競技大会では、銀メダルを獲得しました。リオデジャネイロパラリンピックへ大きな手応えを掴めたのではないでしょうか?

眞田: 大会ではロンドンパラリンピックの時とは違った気持ちで、日の丸を背負って戦えました。試合へのメンタルの持って行き方も、最初からメダルを獲るという高い意識で臨めました。リオに向けて、いいテストになったのかなと思いますね。

 

二宮: 決勝はパラリンピックで男子シングルス2連覇中の国枝慎吾選手との対戦でした。昼間開始予定の試合が夕方開始になるなどスケジュールが大幅に変更されました。この待ち時間の使い方に国枝選手との経験の差が出た、という声もあります。

眞田: おっしゃる通りですね(笑)。約5時間待ったんですね。長時間待つことは、他の大会でもなくはないことなんですが、私としてはこれだけ待ったことは初めての経験でした。やはり待っている時間に気持ちをうまくコントロールができなかった。インチョンで本当にいい経験させてもらったな、と思いますね。テニスの場合、いつ前の試合が終わるのかわからないので、当たり前といえば当たり前なんですが、緊張感をある一定に保たないといけない。ずっと緊張し過ぎていてもパフォーマンスが落ちてしまいます。

 

二宮: なるほど。一方で、国枝選手は経験も豊富ですから、待ち時間の間は音楽を聴いたり、リラックスしていたとお聞きしました。眞田選手はまだキャリアが浅い分、時間の使い方で戸惑った面があったと?

眞田: はい。加えて、夕方の開始となったために、試合中にグッと気温が下がりました。こんな経験も今まではなかったことです。環境の変化に対応することも大事だとインチョンでは知りましたね。

 

 身近にいる世界ナンバーワンの存在

 

伊藤: ちなみに国枝選手との対戦成績は?

眞田: 細かい数字は覚えていないんですが、5、6試合をしてまだ一度も勝ったことないんです。

 

二宮: 目標として、大きな壁であり、越えたいという壁でもあると?

眞田: そうですね。絶対王者と言われている存在なので、そこで自分のマインドがもう試合に入る前から、国枝さんに負けているような感じもある。コートに立ったら、同じ舞台なので、"絶対勝つんだ"という気持ちでやらなければいけないんですけどね。やはりプレーも、気迫でも圧倒される。そういった面では対等に戦えていないのかな、と思います。

 

二宮: 錦織圭選手のコーチであるマイケル・チャン氏が、フェデラー選手をリスペクトしていた錦織選手に対し「コートの中に入ったら、戦うべきで倒すべき相手なんだ。リスペクトなんてしている場合じゃない」と叱咤したと言われています。

眞田: マイケル・チャンコーチが錦織選手に言った言葉を聞いて、すごく衝撃を受けましたね。"わかる"と(笑)。ただそれを錦織選手のように、すぐ実践できるかと言われれば、思っていても身体の動きは違ってくる。もっと精神面のトレーニングが必要なんじゃないかと考えていますね。

 

伊藤: 練習拠点は国枝選手と同じ吉田記念テニス研修センター(TTC)ですね。

眞田: はい。TTCでトレーニングをしている理由としては、世界ナンバーワンの国枝選手がいたり、車いすテニス界のパイオニアの斎田悟司選手がいることです。こういった選手が身近にいるので、トップレベルの車いす操作を目の当たりにして、吸収することができる。これが成長する一番の近道かなと思っています。

 

二宮: "教わるよりも盗め"というわけですね。世界最高峰のテクニックを目で盗むわけですね。

眞田: 一緒に練習していくことで、どんどんチェアワーク(車いす操作)などは良くなってきています。今はとてもいい環境でできていると感じていますね。

 

(第3回につづく)

 

眞田卓(さなだ・たかし)プロフィール>

1985年6月8日、栃木県生まれ。埼玉トヨペット所属。中学時代、ソフトテニス部に所属した。19歳の時にバイク事故で右ヒザ関節の下を切断。リハビリ時に車いすテニスの存在を知り、退院後に始める。2010年、ランキング上位8人に出場資格が与えられる日本マスターズに出場。12年にはロンドンパラリンピックに出場を果たし、シングルスはベスト16、ダブルスではベスト8の成績を収めた。14年のインチョンアジアパラ競技大会ではシングルスで銀メダルを獲得した。7月20日現在、世界ランキングはシングルス8位、ダブルス10位。


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