サウジアラビア戦のMVPを挙げるなら、原口元気を置いてほかにいない。

 激しいプレスにデュエル。攻守にわたってハードワークを続け、獅子奮迅の働きでチームを奮い立たせた。

 

 1-0で迎えた後半35分。左サイドからのグラウンダーのクロスに対し、ニアに入ってきた香川真司の後ろで構えていた原口は落ち着いてゴール左に決めた。W杯最終予選4試合連続ゴールは日本代表史上初という快挙だった(過去に三浦知良、呂比須ワグナーが3試合連続を記録)。

 

「前半からチャンスがあったけど、なかなか決めきれなかった。あのシーンだけは落ち着いていて、しっかりコースも見えていたので決めることができました。日本が勝つために仕事がしたいと思っていました」

 ヒーローはそう言って、安堵の表情を浮かべた。

 

 タフである。

 前半からプレー強度を全開にして飛ばしに飛ばしていただけに、後半に入るとさすがに疲労の色が見え始めていた。それでもネジを巻き直して、スプリントを繰り出していく。相手に体をぶつけてボールを奪い取るなど、疲労を感じさせないプレーを見せた。

 

 疲労が蓄積してしまえば技術的なミスや判断ミスが起こりがちだ。だが終盤でのゴールが、彼の成長ぶりを証明していた。あれだけ走っても、戦っても、大事な場面でミスが出ない。

 体力的なスタミナのみならず、集中力の途切れないメンタルのスタミナが彼にはある。

 

 ブンデスリーガで戦うための体づくりを、継続的に取り組んできた。

 1年前にインタビューした際、彼はこう語っていた。

「サイドの選手は走らないといけない。スプリントの数もそう。スプリントしてからの精度は課題ではあるんですけど、間違いなく進歩していると思います。

 向こうの厳しいトレーニングをやるだけじゃなく、自分のプランに沿ったトレーニングをやっている。(日本では)あまりやらなかった上半身を鍛えたりもしています。(ドイツに来て)1年目より2年目のほうが、球際とか、競り合ったときに自分のボールにするというのは増えてきたかなと思います。(トレーニングは)キツイですよ、正直。でも継続的にしっかりやることができている」

 

 努力は嘘をつかない。課題にしていた「スプリントしてからの精度」も上がっていることを十分に証明できた。

 

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督からの信頼も厚い。左サイドに固定される前はボランチでも起用されている。その理由について指揮官は以前、このように述べていた。

「原口には中盤の真ん中、アタッカーと2つの役割を与えている。しかし私が思う真のポジションは真ん中だ。何故ならボールを持ってスピードアップでき、前線まで運んでいくことができるという特長がある。(ボランチ起用は)トライだが、あらゆるクオリティーを彼は持ち合わせている。どこのポジションで彼を使うかは相手次第でもあり、我々次第のところもある。彼はポリバレントであり、我々にとって貴重な選手だ」

 

 フィニッシュもチャンスメイクもできる。スプリント、ドリブル突破、プレッシング、デュエル、スタミナ。

 すべてにおいて高いレベルを目指そうとする飽くなき姿勢を持つ。

 

 最終予選の厳しい戦いが、さらなる進化を呼び込んでいくに違いない。


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