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(写真:5891人が詰めかけた小雨の神宮球場に歓喜の輪が咲いた)

 27日、第49回日本女子ソフトボールリーグ決勝トーナメント最終日が東京・神宮球場で行われた。リーグ戦1位のトヨタ自動車レッドテリアーズは同2位の太陽誘電ソルフィーユを2-0で破り、2年ぶり9度目の優勝を果たした。太陽誘電は同4位の日立サンディーバに劇的なサヨナラ勝ちを収めたが、王座には届かなかった。決勝トーナメントのMVPには2試合連続完封のモニカ・アボット(トヨタ自動車)が選ばれた。

 

◇決勝

 アボット、2試合連続の2桁奪三振&完封

太陽誘電ソルフィーユ       0 = 0000000

トヨタ自動車レッドテリアーズ   2 = 011000×

勝利投手 アボット(2勝0敗)

敗戦投手 藤田(0勝2敗)

 

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(写真:2日続けて圧倒的なピッチングを見せたアボット)

 神宮決戦となった今年の日本リーグは、1年前に名古屋で涙に暮れたトヨタ自動車が王座を奪還した。

 

 午前中に行われた第1試合を勝ち上がってきた太陽誘電。延長タイブレークまでもつれたため、予定より30分遅れたスタートした決勝は前日の準決勝の再戦となった。

 

 先発ピッチャーも太陽誘電が藤田倭、トヨタ自動車がアボットのエース同士が投げ合った。太陽誘電打線を前日にシャットアウトしたアボットは、この日も立ち塞がる。スパンとキャッチャーミットを叩く音が神宮球場に木霊した。初回から三者連続奪三振の快投を見せる。

 

 一方の藤田も、今シーズン首位打者のナターシャ・ワトリーから始まるトヨタ自動車打線を三者凡退に切って取った。いずれもエースが最高の立ち上がりを見せる。決勝らしく引き締まった展開で試合が運ぶかと思われた。

 

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(写真:1年のブランクを経て、現役に復帰した峰)

 しかし、試合が2回裏に動いた。トヨタ自動車は4番・坂元令奈が三塁線を破るツーベース。「先に1点を取ったら優位に運べる。何としても先制点が欲しかった」と語るキャプテンがチャンスを作った。続く5番・渥美万奈がきっちり送って、1死三塁とした。

 

 6番・山崎早紀がフォアボールを選び、二盗を決める。1死二、三塁。7番の峰幸代は追い込まれてから粘る。フルカウントとなり、藤田が投じた8球目に食らいついて、ショートへゴロを転がす。ホームは間に合わないとショートはファーストへ転送。トヨタ自動車が待望の先制点を掴んだ。

 

 援護をもらったアボットは3回表も110キロを超える力強い速球を峰のミット目がけて投げ込む。3位決定戦でホームランを打っている尾﨑望良を3球三振。この回も三者連続三振を奪い、3回までで7奪三振のパーフェクトピッチングを披露した。

 

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(写真:「打つことが私の仕事のひとつ」と任務を全うしたワトリー)

 続く3回裏にトヨタ自動車は、今シーズン最多勝の藤田に襲い掛かる。9番・知久幸末が右中間を切り裂くようなライナーを放ち、二塁を陥れる。無死二塁でワトリーがライトへと弾き返して、知久をホームに招き入れた。この日、35歳の誕生日を迎えたベテランが、バットで魅せた。

 

“絶対的エース”のアボットに、2点のリードは十分過ぎる援護だった。4回表に先頭打者に内野安打を許したものの、後続の出塁を許さない。スコアボードにゼロを並べ続けた。5回裏2死から4者連続の三振で、計12奪三振。前日に続いて2桁奪三振を確定させて、最終回のマウンドに上がる。

 

 ノーアウトからヒットとフォアボールで、無死一、二塁のピンチを招いた。一発が出れば逆転。ここで迎えるのは、バッターとしては今季本塁打と打点の二冠王・藤田だ。それでもアボットは慌てなかった。「峰と長い時間をかけて準備をしてきた。1球の大切さ、全ての1球が重要になってくる」と、ひとつひとつに力を込めて投げ続けた。

 

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(写真:4番セカンドで攻守に貢献したキャプテンの坂元)

 1ボール2ストライクと追い込むと、5球目の外角球に“二刀流”藤田のバットは空を斬った。最後まで球威が衰えることがなかったアボットは、続く佐藤みなみを6-4-3のゲッツーに仕留めた。ダブルプレーが完成した瞬間、トヨタ自動車ベンチからも選手たちが飛び出し、マウンド付近で歓喜の輪ができ上がった。

 

 アボットは2安打13奪三振完封。2日連続で2桁奪三振&完封という完璧な出来だった。福田五志監督も「最高でした」と称える。太陽誘電の打者たちも「リーグ戦の時とはキレもスピードも違う」と舌を巻くほど。文句なしでのMVPを手に入れた。

 

「優勝することを目標に、昨年の悔しさを忘れることはなかった」と坂元。指揮を執って10年目となる福田監督も「この1年やることをやってきましたので、去年の悔しさを晴らせてよかった」と喜んだ。ビックカメラ高崎に敗れ、連覇を逃した昨シーズン。王座を取り返すことで、リベンジを果たした。

 

 福田監督は「我々はソフトボール界を、日本リーグをリードしていくポジション」と胸を張る。日本代表を多く揃え、アボットとワトリーという元アメリカ代表も所属するタレント集団だが、その強さは個の力だけではない。エースのアボットが「チームとして戦うことができる」と言えば、女房役の峰は「簡単に勝っているわけではなく、みんなが試合に向けてきちんと準備している」と証言する。組織力も高いトヨタ自動車が今後も女子ソフトボールを牽引していく。

 

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(写真:7回に一時は勝ち越しとなるホームランを放った山田)

◇3位決定戦

 佐藤、熱戦に終止符打つサヨナラタイムリー

日立サンディーバ       4 = 30000010

太陽誘電ソルフィーユ   5 = 00210011×(延長8回タイブレーク)

勝利投手 尾﨑(1勝0敗)

敗戦投手 小薗(1勝1敗)

本塁打 (日)佐々木1号3ラン、山田2号ソロ

     (太)河野1号2ラン、尾﨑1号ソロ

 

 準決勝で敗れたトヨタ自動車への挑戦権を得るために太陽誘電は“下剋上”に燃える日立と対戦した。

 

 太陽誘電は“二刀流”の藤田をDPで起用、尾﨑を先発マウンドに送った。しかし尾﨑は初回から日立の佐々木瞳に3ランを浴びた。立ち上がりに3点を追う厳しい展開となった。

 

 一方の日立も前日に好投した小薗美希ではなく、泉礼花をスターターで起用した。泉は1回、2回とゼロで抑えた。

 

 だが太陽誘電もリーグ戦2位の意地を見せる。3回裏に河野美里が2ランを放つと、4回裏には尾﨑が自らのバットでライトスタンドへアーチを架けた。もうひとりの“二刀流”の活躍で3-3に追いついて、泉をマウンドから引きずり降ろした。

 

 追いつかれた日立にも千両役者は存在する。7回表、先頭バッターは山田恵里。「ここで打たないと私がいる意味はない」と打席に入った山田は、6球目のチェンジアップを左中間に弾き返した。打球はフェンスを越えて、スタンドイン。4-3と、再び日立がリードを奪った。

 

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(写真:土壇場の同点打に繋がるヒットを放った藤田)

 その裏を守り切れば、決勝進出。日立にとっては、ここからの3つのアウトが遠かった。2死一塁で藤田にレフト前ヒットでつながれると、続く大塚枝里香の打球はレフト前にポトリと落ちた。

 

 またしても同点に追いつかれた日立は、タイブレークに突入した延長8回。バントを使わず強硬策に出たが、無得点に終わった。すると、その裏に佐藤にサヨナラタイムリーを打たれ、万事休した。

 

(文・写真/杉浦泰介)