高校１年生になった大森遊音は、サンフレッチェ広島ユースへの道は断たれたがＪリーグの下部組織でプレーができることになった。しかし、最初はユースのレベルの高さに衝撃を受けたという。一番の驚きは、２つ年上で同じポジションの近藤貫太だった。
＜2016年11月の原稿を再掲載しております＞
転機となったフィジカルトレーニング
大森は近藤のことをこう語る。
「自分の技術には自信があったのですが、愛媛には同じポジションに貫太君がいたんです。貫太君が一番衝撃的でした。めちゃくちゃ速いんですよ。速い上にシュートが巧い。シュートを決める技術、ドリブルスピード、ドリブル技術、全てすごかったです」
自らのレベルアップのために、大森は居残りでのシュート練習が日課だったという。一緒に特訓を積んだのは、その近藤とだった。
「直接何かを言われることはなかったですけど、見て学ぶものはすごく多かった。一緒に練習をして自分のシュートに対する意識もだいぶ変わりました」
愛媛ではシュートの他にも、課題だったフィジカルコンタクトを強化した。当時の大森の長所はスルーパス、ドリブル、動き出し。彼が抱える課題克服にフィジカルトレーニングに力を入れていた愛媛FCユースはうってつけのチームだった。
大森がユースに所属していた時は津川武久フィジカルコーチ（現・愛媛FCトップチームフィジカルコーチ）が担当だった。津川コーチの指導の下、大森の体はみるみる逞しくなり、次第にプレースタイルも変化する。それまでのテクニックだけに頼ったプレーはしなくなったのだ。
大森の回想――。
「フィジカルトレーニングに取り組むようになって１年くらいの成果で体つきが変わってきました。体が強くなってプレースタイルがガラッと変わりましたし、当たり負けしなくなって、サッカーがより一層、楽しくなりました」
ベンチプレス60キロを10回×３セット。スクワットも重りを付けて10回×３セット。これを週２回行った。当たりが強くなると余裕ができる。加えて、強さを生かして対人守備もめきめきと上達していった。ボール奪取能力に優れ、シンプルにパスをさばける。今のスタイルの礎になった
勝負の年の2017年
愛媛で成長を遂げた大森だったが、それでもトップ昇格は狭き門だった。愛媛FC入団は叶わず。それでもサッカーを諦めきれない大森は大学進学を決意した。関東の古豪・国士舘大学の門を叩いた。基本的に国士舘大学のサッカー部は、Ａ、Ｂ、C1、C2、C3の５グループ編成。大森は入学当初からＢチームに振り分けられるなど、期待されていたと言っていいだろう。２年生の秋には関東大学選抜の一員としてベトナム遠征に参加。遠征に招集されたボランチの中で唯一５試合すべてに出場した。順調に階段を上がっていった。
2015年の国士館大学のトップチームは、関東大学サッカーリーグを５位で終えた。年が明けて“今年こそは優勝を”と意気込むが、開幕から歯車が噛み合わない。
下位から浮上のきっかけを掴むべく、守備力のある大森がトップチーム公式戦のデビューを果たす。スタメンを言い渡されたのは、５月21日に行われた関東大学サッカーリーグ前期の８節、対慶應義塾大学戦前日のことだった。
「前日の夜にいきなり決まりました。前日練習の紅白戦の出来で、翌日の慶應戦には出場できそうな気配はなかったんですが……。メンバーに入ると寮にユニホームが届くんです。その時に“オマエは明日、スタメンだぞ”と言われて、寮でユニホームを受け取りました」。惜しくも試合は１－２で敗れたが、デビュー戦での働きを評価され、大森はコンスタントに出場した。
徐々に大学でも主力の座を確立しつつあった。ところが、前期終了後の中断期間、大森は練習中に膝を故障してしまう。彼が戦線離脱を余儀なくされている間に、国士館大学の低迷は続いた。リーグ戦最下位で２部降格が決まった。
チームの戦力になれず、グラウンドの外から見ることしかできない歯がゆさを感じたはずだ。大森は来季に向けて、「最低でも１部昇格。優勝が目標なのですが、最低限、（１部昇格圏内の）２位以内に入ることがチームとしての目標」と抱負を述べた。
2017年は２部で迎える大学生活最後のシーズンとなった。だからといって、大森は自らの将来を悲観していない。２部からでも神奈川大学のMF武田将平（ファジアーノ岡山に内定）、東洋大学のMF仙頭啓矢（京都サンガFCに内定）のようにプロ入りを決めた例もある。「２部からでもプロ内定者は出ている。来年１年は試合に出て、活躍して結果を残せばプロ入りの可能性はあると思う」と大森は力強く語った。
２部からの逆襲――。大森は、並々ならぬ闘志を胸に勝負のシーズンを迎える。
（おわり）
＜大森遊音（おおもり・ゆおん）プロフィール＞
1995年９月９日、広島県尾道市出身。小学生の頃からサッカーを始める。尾道東ジュニアフットボールクラブ―高島平サッカークラブ―尾道東ジュニアフットボールクラブ―サンフレッチェびんご―愛媛FCユース。読みの鋭さと当たりの強さを生かしたボール奪取が得意なボランチ。2015年には関東大学サッカー選抜にも選出された。171センチ、65キロ。
（文・写真／大木雄貴）
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