ドラフト下位指名選手のMVP受賞は珍しい。6位ともなると、セ・リーグでは初めてのことである。

 

 1998年のドラフトで6位指名を受け、駒澤大から入団した新井貴浩が今年度のセ・リーグMVPに輝いた。

 

 新井が入団した時のヘッドコーチが駒大の先輩・大下剛史である。大学時代のホームランは、わずかに2本。守備も下手クソ。大下が「野球では全く取り柄のなかった」という新井の唯一の長所は体の強さだ。大下は「これだけは持って生まれてきたもの。新井は親に感謝せんといかんよ」と語っていた。

 

 新井とイメージが重なるのが、88年のドラフト5位・江藤智だ。当時の球団部長・上土井勝利は大下の広島商の先輩にあたる。

 

 その上土井から、大下はこう頼まれる。「剛史、江藤をサードで育ててくれ」「ハァ、サードですか? キャッチャーもろくにできん者が、どうやってサードをやるんですか?」

 

 とはいえ、球団の命令となれば逆らえない。秋季キャンプでノックの雨を降らすと、厳しい練習に耐えられず、江藤はホテルまで泣いて帰ったという。

 

 それでも一人前になったのは、「壊れない体があったからだ」と大下は語る。99年のドラフト3位・栗原健太も江藤や新井の系譜に連なる選手と見ていいだろう。彼らの成功を見ているとドラフトは、やはり「素材重視」だと改めて思う。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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