大学ラグビー界で“最強”と称される帝京大学。岩出雅之に率いられ、全国大学ラグビーフットボール選手権7連覇の実績がその強さの証だ。この冬、8連覇を懸けた戦いに挑む。同大を常勝軍団に押し上げた岩出はいかにして選手育成にあたっているのか。大学選手権を初制覇する直前の岩出に迫った8年前の原稿で、そのフィロソフィーを読み解こう。

 

<この原稿は2009年11月12日号『Number』(文藝春秋)に掲載されたものです>

 

 ラグビー部は8つある帝京大学の強化クラブの中でも花形である。

 

 昨年は創部39年目にして関東大学対抗戦グループ初優勝を飾った。全国大学選手権では決勝で早稲田大学に返り討ちにあったものの、深紅のジャージは大いに輝いた。

 

 監督の岩出雅之は部を率いて14年目。「昨年はいろんな意味で部の活動の方向性が見えてきた1年だった」と振り返る。

 

「若い学生にとって先の見えない活動は、不安なもの。視界がよくなれば頑張りがきく。まして大学生活は4年しかありませんから。

 

 1年365日。対抗戦と大学選手権合わせて、わずか11試合のために地道に頑張っている。霧が晴れて見通しがよくなれば“また次も”という気持ちになってくる。目標がハッキリして何をやれば勝てるか、それがわかっただけでも大きい。特に下級生にとって昨年1年間の経験は大きな財産になったと思っています。本当に強く、底力のある勝てるチームになっていくのは、この財産を生かし積み重ねる、これからの頑張り次第ですね」

 

 ラグビー部のスローガンは「ENJOY&TEAMWORK」。130人の部員をバックス担当やフォワード担当コーチ、フィジカルコーチ、トレーナー、マネジャー、管理栄養士が支える。

 

「エンジョイするには、まず自分で準備が大切。目標に向かって行動し、それを達成することで喜びを味わうことができる。それが我々の目指すエンジョイです。

 

 チームワークは何に誇りと魅力を感じられるか。ラグビーがチームスポーツである以上、個人の満足感がチームとしての達成感を上回ることはありえない。そういった意識を全員で共有し、足りないところは全員で補っていく。長い年月をかけて“良き風土”を築いていきたいんです」

 

 岩出は日本体育大学の出身である。中上健次の母校、和歌山・新宮高校に入ってからラグビーを始め、大学3年時にはフランカーとして大学日本一を経験した。

 

 大学卒業後は滋賀県教育委員会勤務を経て、中学、高校で教鞭を執った。体育教師である以上、経験したことのないスポーツも指導しなくてはならない。

 

「中学校の教員時代は野球部の監督をしました。野球は中学時代に経験しているのですが、もちろんノックなどはしたこともない。試合前に両チームの監督がノックをするのですが、これが下手クソ。見ていた選手は、もうそれだけで負けたような顔をしている。これじゃいけないと思い必死にノックの練習をしました。

 

 一方で素人の強みもある。野球って、なぜかいつもユニホームで練習しているでしょう。そんな必要があるのかと思って、暑い時にはTシャツや短パンで練習をさせました。

 

 高校ではバスケットボール部の監督もやりました。進学校だったので1時間半しか練習時間がない。だったら、長所だけ伸ばそうと。オフェンスの得意な選手はオフェンスの練習しかやらない。ディフェンスはしたい時だけやる。何かを成し遂げるには、何かに集中し、何かを切り捨てていかなければならない。そんなことを教員時代に学びましたね」

 

 こうした試行錯誤の日々がやがて実を結ぶ。八幡工のラグビー部監督として7度、花園に出場。高校日本代表の監督も経験した。

 

 帝京大学の指揮を執るようになってはや14年、頂は視界に入っている。ただ、ここからが遠く険しい。

 

 選手はどう考えているのか。

「日本一になることって、そう簡単なことではない。ただ、それを目指して日々、精進していることに“エンジョイ”の意義があると思っています」(福田敏克サブリーダー)

 

 岩出のいう“風土”は一朝一夕のうちに醸成されるものではない。その途上の作業に誇りを持てるか、意義を見出せるか。真冬の戦いは、そのためのメルクマールとなる。


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