FA宣言していた糸井嘉男の阪神入りが決まったという。4年総額18億円だとか。

 

 11月22日のスポーツ紙は、いずれもこのニュースを一面で大々的に報じていた。

 

 35歳のシーズンとなった今年、53盗塁で福本豊(阪急)、大石大二郎(近鉄)に並ぶ最年長の盗塁王、なにか、突き抜けたことをなしとげる選手ではありますね。

 

 同じ日のスポーツ新聞で興味を惹かれたのは、じつはもっと小さな、いわゆるベタ記事だった。

 

 ちなみに「スポーツニッポン」紙が、11字×14行。「日刊スポーツ」紙は、12字×16行でした。サッカーJ1サンフレッチェ広島の佐藤寿人が、来季J2に降格する名古屋グランパスへ完全移籍したというニュースである。

 

 これ、いい移籍だと思うのだ。

 

 まず、佐藤は12年間サンフレッチェに在籍し、エースとして活躍してきたフォワードである。日本代表の経験もある。

 

 印象深いのは2007年、サンフレッチェがJ2に降格したとき、迷わず即座に残留を表明したこと。1年でJ1に戻り、翌シーズンはJ1優勝を果たした。以来3度のリーグ優勝に貢献したチームの顔である。

 

 エースの移籍に見る三者の関係性

 

 ところで、どんな選手にも年齢的な衰えはやってくる。34歳になった佐藤は、今季、めっきり先発出場が減った。

 

 事情はどうあれ、はずしたのは森保一監督ということになる。

 

 森保監督は、就任5年目。そのうち3回がリーグ優勝なのだから、名将と言ってさしつかえないだろう。

 

 チームの顔、大エースを外し続けるという、監督の決断力にまず、敬意を表する。いずれ、こういう事態を招きかねないことも、覚悟のうえだったはずだ。

 

 次いでフロントもまた立派である。

「シーズン中から来季についての契約を打診し、名古屋から正式なオファーを受けた後も、引き続き残留を要請してまいりました」と球団の公式リリースで公表している。

 

 最後に佐藤本人である。自身のオフィシャルサイトにこう綴っている。

「来季はどんな役回りでもやり、広島での現役生活を全うしようと考えていました。その中で今回、名古屋から話を頂き、自分の中で選手としてまだまだ戦いたい(略)、という気持ちが強く、移籍を決断しました」

 

 監督の決断、それを受け入れながらも新天地を求めた選手、その双方を支えようとしたフロントという、三者の関係が透けて見えるようではないか。

 

 Jリーグを手本にFA制度変更を!

 

 プロ野球も、こういう移籍がもっとあっていいと思うが、少なくともFAの場合は少し様相が異なる。

 

 たとえば、今年、実際にFA宣言して移籍交渉をしたのは、たったの5人である。岸孝之(埼玉西武→東北楽天)、糸井嘉男(オリックス→阪神)、森福允彦(福岡ソフトバンク→巨人)、山口俊(横浜DeNA→巨人)、陽岱鋼(北海道日本ハム→楽天orオリックス)。

 

 もちろん、FA権を取得した選手はもっとたくさんいる。しかし、実際には、ごく少数の特別な超一流選手が特別な好条件を得て移籍するための制度になっていないだろうか。

 

 いや、FAそのものは必要だし、ドラフトという形で入団する選手にとっては重要な権利である。問題は、例年、ごく限られた特別な選手のためだけのシステムになっていないか、ということだ。

 

 佐藤寿人のようなケースは、どのチームにでもあるはずで、毎年、20人くらいの選手が、活躍の場を求めて移籍するための制度にしたほうが、日本野球全体のためになると思うのだが。

 

 今のFA制度は基本一軍に8シーズン以上在籍とか、要は一軍選手を念頭に置いたものだが、逆に、入団から5年以上一軍に上がれない二軍選手をシャッフルする制度とか、できないのですかね。え? 5年ダメな選手はどこへ行ってもダメだって? そりゃそうだろうけど、環境が変われば、ということもあるかもしれない。

 

 少なくとも、こうは言えないだろうか。

 

 一流の選手が、より好条件を求めて移籍することができる、という今のFA制度も必要だろう。なにしろ、プロ野球は夢を売る商売ですから。

 

 それとは別に、いわゆる一軍半の選手たち(入団8年目以上というのはFAと同じでいいとして)が、出場機会を求めるFAみたいな場があっても、いいのではないだろうか。

 

 WBCの開催時期を見直すべき

 

 制度の話ということで、もう一つ。

 

 来春はいよいよWBCである。

 

 始まってしまえば、つい、日本を応援する。これをナショナリズムの発露と論ずるムキもあるようだが、どうでしょうね。そうすると、オリンピックはナショナリズムの相争う場ということになる。たしかに、自然と日本を応援したくなるものではある。

 

 私が物心ついてはじめて夢中になったオリンピックは1964年の東京である。小学校3年生だったが、いちばん応援したのは、じつは、マラソンのアベベ・ビキラ(エチオペア)だった。もちろん、円谷幸吉も応援しましたよ。しかし、アベベのかっこよさのほうが、いまでも脳裏によみがえる。つまり、スポーツで自国を応援したくなるという誰にもある感情は、ナショナリズムに解消されない要素も内包しているということだ(アベベだけでこう断ずるのも、なんですが)。

 

 おっと、WBCでした。というわけで、日本には勝ってほしいと願う。それにしても、3月という開幕時期は、いかにも苦しい。

 

 2009年のWBCのとき、決勝はクローザーをダルビッシュ有にして、優勝した。そりゃ私も人並みに喜んだのだが、当時はまだドジャースにいた、かのマニー・ラミレスのコメントが印象に残っている。

 

「日本の最後に出てきたのは、いい投手だね」というものだ。

 

 要するに、高見の見物をきめこんでいたわけだ。

 

 日刊スポーツによれば、「来年3月の第4回大会を最後に打ち切りになる可能性があると複数の米メディアが28日(日本時間29日)に報じた」(11月30日付)そうだ。「米国人にとってはメジャーの公式戦のほうがずっと重要なのだ」(同)と。

 

 これはおそらく米国人だけの感覚ではない。われわれだって、リーグ優勝のほうがより重要だ。このことは、2013年の田中将大を思い出すとよくわかる。WBCではそんなに目立った活躍はしなかったが、シーズンに入ると24勝0敗の大記録で東北楽天の優勝に貢献した。

 

 思うに、3月は野球にとって、あくまでもキャンプ、オープン戦の季節であって、本気で戦う時期ではないのだ。だから、なによりもまず考えるべきは、開催時期の変更である。

 

 4年に1度、オールスターブレークを2週間とって、ベスト8のトーナメントだけやればいいと思うのだ。これなら、その年のトップコンディションの選手が、本気で戦える。

 

 ベスト8までは、前年の秋までに、予選リーグをやって決めておけばいい。真夏の決勝トーナメントは、2週間で7試合やればいいのだから、無理はないだろう。名案だと思いませんか。

 

 ともあれ、来年はもはや動かしようがないから、今はただ、大谷翔平が故障しないことを祈るのみ!

 

 CS(クライマックスシリーズ)のいびつな仕組みについては、何度か触れたので繰り返さないが、CS、FA、WBC……なにかと制度がしっくりこないのである。

 

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール

1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。


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